東京女子医科大学病院がハイリスク薬の処方箋発行を院内に戻したことが波紋を呼んでいる。近隣の保険薬局では、抗癌剤のレジメンや有害事象に関する知識の乏しい人が多いため、十分な安全管理や服薬指導ができないと判断した結果だという。
特に最近は、抗癌剤や免疫抑制剤、新規抗凝固薬など、作用の鋭い新薬が相次ぎ登場し、薬物療法の進歩は著しい。その反面、特殊な副作用に細心の注意を払う必要があり、患者の安全管理は一層重要になってきている。
こうした日進月歩の薬物療法マネジメントにかかわり、病棟でチーム医療に参加し、重症度の高い患者に接してきている病院薬剤師からすると「切迫感が違う」のも事実。保険薬局での対応に不安や物足りなさを感じるのも無理はないが、だからといって医薬分業に反する院内処方に切り替え、患者の安全管理を全て病院で行う方針を打ち出したことは、保険薬局に大きな衝撃を与えた。
院内処方を行う病院のメッセージは明快で、「高いレベルのファーマシューティカルケアを患者に提供する外来調剤」を理想に掲げる。薬価差益を目当てにしているとか、医薬分業に反することへの批判も承知の上での方針転換であり、「病院では院内処方でやる代わりに、ここまでレベルの高いことをやる。それに対して、保険薬局では何ができるのか」という強烈な問いかけでもある。
当然、薬剤師会は反発しているが、明確な目標に対抗するだけの反論、ビジョン、エビデンスはあるだろうか。
同じ問いかけは、大学病院による院外処方箋への検査値表示の取り組みでも見られたが、こちらは薬局薬剤師に外来患者のチーム医療を担ってほしいとのメッセージに対して、現場から歓迎の声が上がるなど、前向きな薬薬連携につながっていると聞く。
確かに、病院では多職種のチーム医療の中で、少しでも手を抜けばチームの一員から置いていかれる厳しい状況がある。薬剤師も医療の高度化や薬物療法の進歩を踏まえた上で、専門性を発揮できなければ、チーム医療の中で役割を果たせない。
それが病院と保険薬局による切迫感、危機感の違いとなって表れてきているのだろう。
ただ、病院ができていて、保険薬局ができていないという単純な図式ではない。どこまで医療人としての意識を高く持ち、業務展開につなげていけるかということだ。
正直なところ、いま同じ薬剤師でも病院と保険薬局で意識の乖離が大きくなっているような印象も受ける。このギャップをどう埋めていくかが重要であり、同じ薬剤師同士で反発し合うのではなく、院外処方箋の検査値表示のように、うまく機能している薬薬連携の事例を一層推進していくなど、病院と保険薬局でイメージを共有していくべきである。
まずは「医療人」としての意識を統一することが急がれる。それがきっかけとなり、将来的な職能発展につながると信じたい。