薬業界の末席をけがす者として、何とも言えない事件や事故が相次ぐ事態となっている。通称「脱法ドラッグ」なるやっかいな存在と使用に起因する。
そもそも脱法とは法規制を逸脱していることであり、以前頻繁に使われていた法律や省令、条例などで規制されていない成分を含む「合法ドラッグ」と似た意味合いで、この言葉を用いているのは非常に違和感を感じる。
名称に関しては、厚生労働省と警視庁が5日から今日まで、新しい名称を募集した。危険性の高い薬物と幅広い世代が理解でき、ハーブは原則使わず、公序良俗に反しない表現という要件を満たす新呼称に期待したい。決まったら、速やかに広報して、脱法ドラッグという意味不明瞭な単語を国民の間から駆逐してもらいたい。
法規制が追いつかないのは、薬事法で販売、所持、使用が禁じられている指定薬物の構造式を少しだけ変えて販売するためであり、当該成分を新しく指定してもすぐに一部変更した成分の薬物が出てくる。まさにイタチごっこの典型例である。
規制・取締当局は努力してはいるものの、関連した事故や事件が続き、国民の不安は払拭されていない。
指定薬物とそれを含有する物質は、薬事法の規定で、疾病の診断、治療、予防の用途など以外に供するための製造、輸入、販売、授与、貯蔵、陳列が禁止されている。違反者には、3~5年以下の懲役か300万円以下~500万円以下の罰金が科せられる(厚労省ホームページより)。それでも次から次へと世間に出回るのは、やはり儲けられるからなのであろう。指定薬物は117あり、うち三つは包括指定である。
政府は8日に「薬物乱用対策推進会議」を開催して、規制の見直し検討、関連する犯罪の取り締まり徹底強化を確認した。田村厚労相は、包括指定で網をかけても違う構造式のものが出てくることから、海外の情報を把握して指定を早めていく意向を述べた。
さらに菅官房長官は、「例えば、指定薬物に該当しない薬物の取り締まり手法の検討など、できることは全て行うという基本姿勢で検討していく」と一歩進んだ対策に意欲を示しており、政府の本気度がうかがえる。
取り締まりに関しても、10日には厚労省関東甲信越厚生局麻薬取締部が、東京都と警視庁と合同で一斉立入検査を行い、都内44店舗に販売自粛の警告文を手渡した。
そして11日、田村厚労相が指定薬物を含んでいないものでも、幻覚などを起こす精神毒性があり、中枢神経に影響を与える物質と鑑定されたものは、薬事法で販売が禁止されている無承認医薬品として取り締まることが可能か検討を進めることを明らかにした。
先手を打つ脱法ドラッグへの諸対策が実効あることを願う。