薬剤師の行動変容を支援
薬学ゼミナール生涯学習センターは、地域や医療現場でより活躍できる薬剤師を育成するための生涯学習プログラムの開発に取り組んでいる。目指す姿は、患者さんの病態、生活背景などを理解した上で薬物療法だけでなく職種の壁を越えた連携(スキルミックス)ができる薬剤師「スキルミックス薬剤師」である。同センターが実施した生涯学習講座に参加した薬剤師を対象とした解析では、講座後に行動変容が予想される結果が得られたという。木暮喜久子センター長は、「一人でも多くの薬剤師に当センターの生涯学習講座に参加していただき、意識を高める取り組みを行っていきたい」と話す。
同センターでは、2010年に薬剤師認定制度認証機構から「生涯研修プロバイダー」の認証を取得し、「未病」「症候診断」「在宅医療」「緩和ケア」の四つのテーマを中心に生涯学習講座を開催している。
薬局や薬剤師を取り巻く環境が大きく変化する中、患者情報を院外薬局と共有し、処方箋に検査値を記載する医療機関が増えている。今後も病名開示やカルテ共有などが行われることで、薬剤師が受け取る情報量が増大すると予想される。チーム医療の中で、薬剤師が薬学的知識のみならず、こうした患者情報を活用して患者の服薬指導に生かしていくために、求められるのが医師の思考プロセスだ。
医師の思考プロセスとは、医師が日常診療で行う問診→診察→検査→診断→治療という考え方である。疾患名から疫学・病態・症状・検査・治療等を理解する「疾患論」だけではなく、患者の症候や検査値などを踏まえて臨床決断にたどり着く「症候論」にも対応できる薬剤師が求められるという考えだ。
薬剤師が環境変化を好機と捉え、自らの行動を変える必要性を実感してもらうための講座を開催した。[1]医師の思考を想像するワークプロセスの理解・体験研修(わかりやすい症候診断)[2]患者の行動変容を支援するための研修(薬局でのセルフメディケーション~糖尿病編~)[3]医師の診察(フィジカルアセスメント)体験研修――を通じて「医師の思考プロセス」と「疾患論から症候論への思考体験」の修得を試みた。そして、三つの講座に参加した薬剤師366人に対してアンケート調査を行った。
いずれの講座も「新たな知識・技能を得ることができたか」「今後の業務で活用できそうか」という問いに対して、良好な結果が得られた。フリーコメント欄での回答でも明日からの行動に影響が与えられるような記載があった。
この結果から、医師がどのように情報収集から解釈、決断を行っているかを症例をベースに学ぶことは、患者の主訴や状態・健康診断結果などから得られる様々な情報を整理でき、これからの薬剤師にとって有効な考え方であることを確認することができた。一方、課題としては、「興味関心・必要性を感じても実行の仕方が分からない」との声も一部あり、現場での具体的な活用法を検討する必要性も示唆された。
同センターでは、今回のアンケート結果を受け、患者の状態を「点」ではなく「線」で捉え、変化を解釈できるプログラムを検討している。ある患者の検査値が基準値よりも「高い」「低い」というワンポイントのデータだけで服薬指導・支援するのではなく、過去の検査値や患者の性格などを加味して、未来を予測した服薬指導・支援を行うトータルマネジメントを意識した講座を導入する(図)
今後もチーム医療の中で活躍できる薬剤師の行動変容の実現に向け、取り組みを継続していく。一人でも多くの薬剤師に生涯学習講座へと参加してもらえるよう、告知や講座企画を行っていく予定だ。さらに、薬剤師の行動変容ステージを「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」の五つに分け、それに合わせた講座も企画し、これまで以上にきめ細かなサポートを強化する。
薬学ゼミナール生涯学習センター
http://www.yakuzemi-shougai.jp/