薬学部の入学定員が、来年4月には1万3000人を突破することが確定的となった。今年度は1万2546人だが、来年度には新設校を含めて5大学に薬学部が設置され、710人の純増が見込まれるためだ。薬学部がなかった岩手県に、岩手医科大学が薬学部を開設する予定であり、薬系大学を持つ県は29都道府県に達する。未だに指摘されている薬剤師の地域偏在解消も、遠い先のことではないと歓迎する向きもあるが、実務実習施設の確保や、毎年輩出される多くの人材をどこで受け入れるのかの心配が先に立つ。
薬学部6年制の論議が本格化した当時、最大の問題は長期実務実習の実施であり、実習受け入れ先の確保であった。この点は現在も重点課題であることに変わりはない。当時、受け入れ先確保を検討するために見込んでいた学生数は、8500人程度であり、それなら受け入れ可能だと算盤をはじいていた。
ところが2003年度以降、薬系大学の新増設が相次いでいる。来年度の新設予定5校を含めると、薬学部は03年度からの5年間で26大学増えることになり、入学定員も1・5倍に激増する。これは、あくまで定員だけの計算であり、現実がさらに厳しい状況にあることは周知の通りである。
薬学部新設ブームの直前、02年度の時点では、全薬系大学46校のうち関東圏は15校だった。これが全国平均と同じペースで増加し、現在は23校と5年間で1・5倍に膨れ上がった。
入学定員も5245人に達しており、全国の4割以上が関東地区に集中している。大学・学部の新設によって1655人、既存校の定員増により約350人増加し、5年前に比べると約2000人増えた計算だ。
首都圏を中心に、実務実習の受け入れ可能な施設が多いとはいっても、限度がある。学生を出身地に戻す“ふるさと実習”を、推進すべきという主張もうなずける。
ここに来て実習施設の確保と指導薬剤師の育成に向け、病院・薬局実務実習関東地区調整機構が新たな手を打つことになった。「6年制実務実習体制確立のための資金」として、各大学が定員1人当たり2000円を拠出するというもので、先の総会で了承された。
実務実習指導薬剤師の養成に必要なワークショップを支援したり、独自の講習会開催に充てようという考え方である。認定実務実習指導薬剤師の育成には、厚生労働省も補助金を出しているが、現実は厳しい財政状況にあり、受け入れ側に負担がかかっている。
従来から教育条件の整備、充実は、大学側の責任で行うべきとの考えはあった。しかし大学と受け入れ側の意思疎通が十分でなかったこともあり、職能側の善意に支えられてきた部分は大きい。そうした中で今回、受け入れ体制整備のために、大学が応分の負担を了承したことは、非常に意義深い。
一方、この数年、実習受け入れに手を挙げた施設が、翌年には取り下げるという傾向が見られるが、その理由は「学生が来ない」ためという声をよく聞く。受け入れ施設側の前向きな姿勢が維持されるように、態勢の見直しを含め、物心両面における相互理解をさらに深める必要があろう。