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【2016年回顧と展望】激動の時期を乗り越え、研究開発と国際展開を通じて医療への貢献を目指す‐製薬協専務理事

2016年12月27日 (火)

日本製薬工業協会専務理事 川原章

川原章氏

 「このままFDAで仕事をし続けるべきか悩んでしまう」。この言葉は、米国大統領選挙が行われた11月10日に大阪で開催中であったICHに参加したFDA担当官の一人から聞いた言葉である。いかにトランプ次期大統領の誕生が米国の知識層に大きな影響を与えたのかが窺い知れるエピソードであった。

 トランプ次期大統領が11月21日に発表した就任直後の100日に行う計画の12本の柱の中には「ヘルスケア改革:医療保険制度改革法(通称オバマケア)を廃止し、以下の取り組みを推進する。▽医療保険における個人の自由を守る▽脆弱な人々、障害者等、罪のない人命を誕生から自然死に至るまで守る。ヘルスケア分野における研究開発を推進する▽新しく革新的な医薬品への患者のニーズに応えるため、食品医薬品局(FDA)を改革する」というのが盛り込まれている。

 既に厚生長官にはオバマケア廃止の急先鋒といわれていたプライス氏の起用が内定しており、ドラスティックな治験手続きの変更をはじめとしたFDAの改革についても検討されているといわれている。カリフFDA長官に代わる新長官名がアナウンスされてくる頃から、より具体的な改革内容が明らかになり、いずれわが国への影響も出てくるものと考えられる。

 また、ICH大阪会議の休憩時間には、英国のEU離脱(Brexit)に伴う、欧州医薬品庁(EMA、現在の所在地はロンドン)の移転の件も話題となった。現時点では英国からの正式の離脱通知もなされていない中であり、雑談の域を出ない範囲であったが、移転先候補に名乗りを上げている都市名なども出て、来年にも英国EU離脱に伴うEMA移転の話が表面化してくると予測させるものであった。このことも今後の欧州における医薬品審査等の集団協業体制にどのような変化をもたらすのか、これもわが国への影響が考えられる。

 このような不透明な国際情勢の中で、国内的には薬価をめぐり、以前にも増して荒れ模様の年末に突入した印象である。経済財政諮問会議(11月25日開催)において唐突ともいえる民間議員の問題提起を受け、政府内において従来の中央社会保険医療協議会(中医協)の枠組みを超える異例な形で「薬価制度の抜本的改革について」の議論が、本稿執筆中の12月19日現在も行われている。

 中央社会保険医療協議会と経済財政諮問会議の役割分担など、明確ではなく、具体的な内容の検討は2018年改革に向けた議論の中で行われるものと思われるが、いずれにしても業界に向かって、毎年改定などの強烈な逆風が吹いていることは間違いなく、過去に記憶のない異例な年末となっている。言うまでもなく、仮に全面的な毎年改定が強行された場合、新薬研究開発等へ甚大な悪影響を及ぼすことが強く懸念される。

 なお、研究開発基盤の整備という面からは、日本医療研究開発機構(AMED)が設立2年近くを経過した。AMEDと医薬品医療機器総合機構(PMDA)との連携も強化され、相互に存在感も増してきており、米国のNIHとFDAの連携に近づいているように思われる。

 今年は製薬協としても、官民共同事業という形でAMEDと「生物統計家育成支援事業」を10月初旬に無事スタートすることができたほか、会員企業による連携・共同事業も進展しており、今後の成果に結びつくことが期待される。もちろん、AMEDの組織・人員、予算などの規模感は、業界の期待するレベルには達しておらず、今後も引き続き充実強化が図られるよう働きかけていく必要がある。

 また、昨年の大村智特別栄誉教授(北里大学)に引き続き、今年もオートファジーの研究でノーベル医学・生理学賞が大隅良典栄誉教授(東京工業大学)に授与されるという慶事があった。オートファジーと医薬品研究開発は既に結びついており、改めてわが国の研究開発型製薬産業に対し、これらの基礎的な発見を新薬創出に結びつけるよう奮起が促されたと受け止める必要がある。一方、ノーベル賞受賞の前評判の高かった、癌免疫チェックポイント関連の画期的な日本発の薬剤が、高額薬剤として年末の薬価面からの批判の中心となったことは非常に残念な展開であった。

 国際面では、昨年は国際薬事規制調和戦略の策定や新しいICH協会の発足など、国際展開のための環境整備の進展が目覚ましかったが、今年は長い停滞が続いていた隣国の日中韓関係についても関係改善に向けた動きが顕著になり、国際展開という観点からアジア地域を中心とした国際協力・協調に重点を置く必要性が高まってきたと感じられた。

 このほか、製薬産業に関連するものとして、5月の伊勢・志摩サミット、9月の保健大臣会合(耐性菌問題など)、ジカ熱など枚挙にいとまがなかった。また、着実な進展を見たものとして、台湾、タイにおいて日本の審査を参照することなどが決定されたほか、PMDAのアジアトレーニングセンター等のプログラムも急速に整備された。今後一層の発展を祈念したい。

 来年も、国際的にはポピュリズムとナショナリズムの高い波が目立つ年と予想されている。年末になって隣国韓国では大統領弾劾職務停止という大きなニュースも飛び込んできた。

 そういう世界情勢の中で、わが国の政治・社会の安定は際立っているように思われる。来年は、薬業界にとって今年末にまとめられた薬価制度改革の具体案作成が進展する厳しい年になることが予想されるが、これらを乗り越え、新薬の研究開発と国際展開を通じて世界の医療への貢献を目指すことに専念できるようになることを切望したい。



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