日本OTC医薬品協会顧問 西沢元仁
年初めはセルフメディケーション税制から
2016年は、前年12月16日に与党税制調査会から2016年度税制改正大綱が示され、かねてから要望してきたセルフメディケーション推進について「セルフメディケーション(自主服薬)推進のためのスイッチOTC薬控除(医療費控除の特例)」として明記されるに至ったことから始まった。
1月27日に、グランドアーク半蔵門を会場とした初めての新年祝賀会が、来賓多数の参加を得て挙行され、とかしき奈緒美厚生労働副大臣、山本信夫日本薬剤師会会長、青木桂生日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)会長からお祝いのごあいさつをいただき、上原明日本一般用医薬品連合会会長の乾杯発声により、新たな年の始まりを祝した。
杉本会長の新年あいさつでも、セルフメディケーション推進税制を起爆剤として、生活者の健康への取り組みを支援すること等が示された。
3月31日には、所得税法の一部を改正する法律が公布され、セルフメディケーション税制≪医療費控除の特例∨が規定され、対象となる82の有効成分も公表された。
その準備が始められる中、4月14日に発生した熊本地震では、その後の大きな余震等もあり、会員企業においても本社、工場、営業所等の被害が相次いだが、厚生労働省や日本薬剤師会からの救援・支援の要請に対し、会員企業の協力により救援用医薬品等の提供に当たった。
税制措置のみならず、生活者のセルフメディケーションの取り組みを支援するための様々な取り組みとして、広告規制の適正化、体外検査薬のスイッチ化促進、健康サポート薬局の推進、等も会員企業の支援を得ながら取り組みが進んだ。
2016年度の重点7項目
5月20日に開催された第52回総会では、今年度の重点活動項目7項目と関連活動計画および予算が採択された。
[1]セルフメディケーション税制の施行に向けた的確な対応
[2]スイッチOTC化(検査薬を含む)の加速と拡充
[3]ビタミン含有保健剤(医薬部外品)の製造販売
[4]地域包括ケアシステムの支援
[5]適正な宣伝・広告活動の推進
[6]インバウンド対策
[7]政府・PMDAとの協力によるアジアでの各国OTC薬事規制の標準化に向けた支援
なお、本総会に合わせて日本OTC医薬品情報研究会第42回総会もつつがなく開催された。2630品目を収載し、OTC医薬品販売制度、スイッチOTC承認審査スキーム、知っておきたい皮膚症状等のページの拡充、等が図られた第15版OTC医薬品事典が披露された。
セルフメディケーション推進税制を円滑に実施するため、該当OTC医薬品に表示する共通識別マークが一般薬連から公表され、10月には表示した製品の出荷が始められた。併せて、店内掲出用ポスターや生活者啓発チラシに向けた電子データの提供も始められた。
薬剤師養成コアカリキュラム改訂に基づいた薬剤師国家試験出題基準改定の作業が開始されたことに合わせ、日薬、JACDS、一般薬連の3団体連名による要望書が塩崎恭久厚生労働大臣に提出された。今後、薬科大学での研修を支援する等の取り組みも必要と考えられている。
8月から10月にかけて、各地での啓発事業に関連団体とともに参加し、セルフケア、セルフメディケーションの適切な実施を呼びかけた。その一環として、夏の協会HPアンケートが実施され、「セルフメディケーション税制」に関する初めての調査では、認知度は低かったが、利用してみたいとする回答は3分の2を超え、生活者の関心の高さが示された。
世界でも様々な動き
国外に目を向けると、当協会が加盟する世界セルフメディケーション協会(WSMI)の事務局が、ジュネーブ空港隣接のフランス領から、スイス国内に移転し、ICHの正式会員となる等の進展があった。
さらに、10月にはWSMIアジア太平洋地域会合ならびに第3回APSMI総会が、23の国、地域から278人の参加を得て名古屋で開催された。この大会の統一テーマは、「Acceleration of Self-Care toward Next Stage ― Past Efforts and Future Challenges in Asia ―」であり、第3回Self-CARER(セルフメディケーションに関するアジアOTC規制当局者協働円卓会議)が併催され、地域におけるOTC医薬品行政の相互理解と、最適化に向けた論議が行われた。
APSMIの当初参加国に加え、フィリピン、インドネシアの協会がそれぞれ加盟するほか、Self-CARERには、APSMI未加盟国の規制当局からも参加を得、今後の広がりが大きく期待されている。
昨年発表されたOTC医薬品産業のグランドデザインは、掲げた取り組みを着実に実現することにより、日本国内はもとより、アジア太平洋地域のセルフメディケーションを推進するものとなるものと期待されている。