今年に入り早くも2カ月が経過したがこの間、医薬品業界関係者の間で最も注目された話題といえば、やはりC型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」の偽造品の流通問題だろう。ことの経緯については、既に本紙でも紙面を割いて報じているため、ここで詳細については触れないが、国内の医薬品流通や薬局での処方箋調剤のあり方について一石を投じる事件であったことは間違いない。
今回の事件では当該品について「偽造品」という言葉が多く使われた。いわゆる「偽造医薬品」の流通は、世界的にも大きな懸念材料となっているだけに、国内の流通過程で発生したインパクトは少なくない。WHOでは、偽造医薬品の定義について「同一性や出所起源に関して、故意に不正に偽造表示された医薬品」としている。これらの場合は、組織的に製造されし、インターネット等を中心に販売、流通しているものだ。
国内でED(勃起不全)治療薬を製造・販売する4社が昨年報告した合同調査でも、インターネット上で入手したED治療薬の約4割が偽造品だったことが判明している。
今回、国内で発覚した偽造品は、正規品のボトルに異なる物が混入されていたという点からも明らかに偽造品と言えるが、いわゆる国際的に問題となっている偽造医薬品の流通とは性格は異なる。深刻なのは、法律に基づいた日本の医薬品流通、薬局薬剤師業務の過程で発生したということだ。
そのポイントは、非正規ルートによる流通だったことに加えて、ボトル詰め包装の医薬品であったことも少なからず要因としてあるのかもしれない。国内の医療用医薬品のカプセル剤や錠剤は、一包化などを除けば大半が患者が服用する直前までPTP包装のままだ。調剤する薬剤師は比較的容易に剤形などを目視で確認できる。今回はボトル詰めの製品で、吸湿性の点からかボトル開封後の製剤安定性が45日とされていることもあり、薬剤師による中身確認が行われなかったのだろう。
また非正規ルートによる医薬品流通は今に始まったことではない。正規ルートよりも安価で仕入れることができるため薬価差を求める医療機関や薬局向けに市場がある。余剰在庫を現金化したい医療機関や薬局などから買い取る形態が一般的だが、今回の件のように入手先不明のルートからの買い取りも行われているのが現実のようだ。1ボトル薬価が約150万円する高額医薬品だったことも不正販売の要因になったのかもしれない。
ボトルの包装形態に関して、「ハーボニー配合錠」の製造販売であるギリアド・サイエンシズ社は先月末で製造を中止し、今月からPTP包装品の出荷を開始するなど改善措置を講じている。また、偽造品を販売した薬局企業への行政処分の検討が行われているようだが、大きな被害を被った患者がいないことがなによりの救いだ。今後、医薬品の最終調整者である薬局薬剤師には、今回の件を念頭に細心の注意を払った調剤業務遂行を望みたい。