わが国のてんかん患者は約100万人と推計されており、その発症要因や症状は様々だ。近年、高齢化社会の進展と共に加齢に伴うてんかん発作が増加している。
高齢発症てんかんの特徴では、まず、通常の側頭葉てんかんの複雑部部分発作に比べて症状が地味なことが挙げられる。運動症状がわずかで意識障害のみのため、一見ボーッとしているように見え発作後のもうろう状態が長い。
発作頻度は少ないものの、頻発する高齢者運転事故において、この疾患が疑われるものも少なくない。また「身体感覚症状」「視覚症状」「聴覚症状」などの前兆なく発作が起こる。
高齢者てんかんをルチン脳波で診断すると、56%の患者に脳波異常があり、部位としては側頭部に多い。だが、高齢発症てんかんは、意識が突然途切れてボーッとしているように見えるため、脳波検査をすることなく“認知症”や“うつ病”に誤診され、適切な処置をされずに疾患を進行させてしまうケースも少なくない。
では、高齢発症てんかんは誰が気づいてどのように診断・治療すればいいのか。気づきでは、家族・介護者による高齢者の普段とは異なる症状の発見が不可欠だ。そのためには、家族・介護者に高齢発症てんかんの症状の特徴をよく理解してもらうための啓発が重要になるのは言うまでもない。
診断・治療では、外来脳波は鋭波が少ないため、局所的な徐波を探す必要がある。高齢発症てんかんの確定診断には、入院しての長時間ビデオ脳波モニタリングが最も適している。とはいえ、脳波に関する医学部の授業はほとんどなく、詳細に心電図を読める医師は少ない。従って、脳波検査を医師の卒後教育の重要なテーマの一つとして取り上げる必要があるだろう。また、脳波検査は保険点数が低く、あまり普及しない原因になっている。
通常、てんかんは精神科、神経内科、脳外科、小児科などへの受診が一般的だが、これらの診療科で診断・治療が困難な時は「てんかんセンター」で詳細な検査や治療方針を決定してもらえる。
一方、当人や家族に高齢発症てんかんの症状の特徴を啓発し、早期受診勧奨を行うにはどのような手段が考えられるか。真っ先に思い浮かぶのが街の薬局・薬剤師の活用だ。
2015年の新オレンジプランにおいて、薬剤師は歯科医師と共に認知症の早期発見における役割が明記され、認知症患者の服薬指導等を適切に行うことが盛り込まれた。
街の薬局・薬剤師は、高齢者てんかんもその一環と考え、まず自らが高齢者てんかんの特徴や治療方法を理解し、その症状に該当すれば当人やその家族に受診勧奨する方法が望ましいだろう。
認知症は、持続的に認知機能が低下するが、高齢者てんかんは早期にてんかん薬を服用すれば治癒する可能性の高い疾患だけに、薬局での疾患啓発・早期発見の役割が期待される。