この102年で激変すると見られる薬剤師を取り巻く環境。特に開局・勤務を問わず、市中の薬局で広く一般住民と接する機会の多い薬剤師は、従来の型通りの調剤、あるいは一般薬の販売などに終始しているだけではなく、一歩前に踏み出した薬剤師職能の発揮が問われるだろう。
調剤を実施する薬局は、既に医療法で医療提供施設と位置づけられている。4月からは特定健診・特定保健指導への参画、後発医薬品の使用促進にかかる対応に加え、調剤報酬で高く評価された在宅医療への取り組みも求められる。一方、改正薬事法ではリスク分類に伴い、薬剤師専用の一般用医薬品(第1類薬)が誕生するなど、薬局・薬剤師を取り巻く制度の整備も進んできている。
薬局は今後、地域完結型の医療制度の中へ、様々な形で組み込まれていく方向にある。さらに言えば、住民に切れ目のない保健・医療を提供し、地域で完結させるために、薬局は行政や医療機関等と連携を取りながら、より充実した健康、未病への取り組みを展開することが可能になる。その意味で地域の薬局・薬剤師には、医療人として地域住民の医療・健康保持に貢献するという大きな役割が期待されている。
先日、あるパネル討論会で、医療人としての薬剤師活動の可能性について興味深い議論を聞いた。昨年、医療用医薬品から一般医薬品へスイッチされたアシクロビル軟膏の取り扱いをめぐるものだ。同剤の一般用としての効能は、「口唇ヘルペスの再発(過去に医師の診断・治療を受けた人に限る)」である。だが医療用としては、帯状疱疹や性器ヘルペスなどの治療に用いられる成分でもある。
話題として上がったのは、医療機関が休日で、薬局に帯状疱疹の患者が来た際の対応。帯状疱疹後疼痛の緩和を考慮して、薬剤師の判断でOTC薬を提供するかどうか、添付文書通りの対応が優先されるべきだろうが、職能的には悩ましいところだ。
パネリストの一人からは「責任を回避せず、自分の知識が目の前の患者にとって役立つかどうかという視点に立ってほしい」と前向きに取り組むべきとの発言があった。また、参加した行政のパネリストからは、「薬剤師免許でできる行為は薬剤師法で規定されているが、医療人としての判断も必要」とのコメントもなされた。
薬剤師の任務は、薬剤師法第1条に「国民の健康な生活を確保するもの」と記されている。処方せん調剤やOTC薬の販売のみならず、医療人としての職域・職能を拡大していく過程では、職能としての判断を迫られ、現行制度との葛藤に苦しむ局面も出てこよう。
米国で薬局研修などを経験した薬剤師の話を聞くと、必ず日本の薬剤師に比べ、米国の薬剤師には医薬品に対する強力な権限と責任を負う体制や制度が敷かれ、年収も高く、医薬品専門家としての高い地位が確立されていることを強調する。それは理想でもあり、職能人として魅力的に映る姿かもしれない。しかし、それは米国の薬剤師が、自分たちの努力で勝ち得た信頼に基づくものである。
日米の間には制度の違いが確かにある。日本の薬剤師は、医療人として患者の死に直面したり、法律と直に向き合うようなケースは稀だと思う。
しかし、個々の薬剤師が人として患者と向き合い、信頼を得ていく中で、薬剤師のステータスや職域の拡大につながると考えるべきであり、法律に規定された薬剤師業務のみに終始していては、先に進めないことは間違いない。薬剤師は医療人としての判断や行動を、国民に向けて顕在化させる努力が求められる。