2016年の国民健康・栄養調査で、糖尿病有病者と糖尿病予備群は、いずれも推計で1000万人に上ることが判明した。糖尿病有病者が1000万人の大台に達したのは今回が初めて。糖尿病患者は、同調査を開始した1997年の690万人から年々増加傾向にあり、新たな糖尿病薬物治療の確立は必要不可欠となっている。
糖尿病では、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害の3大合併症に加えて、脳・心血管イベントの発症リスク向上も重要な合併症の一つとして見逃せない。脳・心血管イベント発症リスクは、糖尿病でない人に比べて2~3倍増加するためだ。
糖尿病の究極の治療目標は、これら合併症の発症・進展を阻止して、健康な人と変わらないQOLの維持・寿命確保にある。その目標を達成するには、血糖だけでなく、血圧、脂質の良好なコントロール維持が求められる。海外のSteno-2試験でも、血糖値だけでなく、血圧、脂質を包括的にコントロールすることで、心血管イベント発症率を大きく抑制できるエビデンスが示されている。だが、3項目全てが目標値まで管理されている日本人の糖尿病患者は20.8%と少ない。
こうした中、昨年9月、欧州で開かれた糖尿病学会で、エンパグリフロジンのEMPA-REGアウトカム結果が報告され、SGLT2阻害薬による脳・心血管イベント抑制作用に大きな関心が寄せられた。
FDAでは、新規糖尿病治療薬の承認条件として、脳・心血管イベントアウトカム試験を義務づけている。同義務づけは、2型糖尿病治療薬ロシグリタゾンが心血管イベントを増加させる懸念があったことに起因する。
ロシグリタゾン以降、脳・心血管イベントに関しては、プラセボに比べ非劣性(増加しない)を証明するように要求されるようになった。EMPA-REGでは、非劣性だけでなく、有用性が示されたことが大きな注目を呼んだ。
さらに今年6月、米国糖尿病学会で、カナグリフロジンの脳・心血管イベントに対するベネフィットを示すCANVASプログラム結果が発表された。
EMPA-REGとCANVASプログラムの患者背景における大きな違いは、前者は全て脳・心血管疾患の既往がある2型糖尿病患者を対象としているのに対し、後者は同疾患の既往がない人が3分の1(一次予防)含まれている点にある。
とはいえ、臨床治療における意義では、EMPA-REGに続いて、CANVASプログラムでも、脳・心血管複合イベントリスクの低減率が14%と同様の数値が示され、脳・心血管イベントに対する有効性はSGLT2阻害薬共通の作用である可能性が高まった。
また、SGLT2で可能性が示唆されている腎保護効果については、CREDENCE試験などによるさらなる検証が待たれるところだ。
これらの試験結果は、糖尿病患者が増加するわが国において、新たな糖尿病薬物治療の展望に大きく寄与するものと考えられる。SGLT2阻害薬のさらなるエビデンス蓄積に期待したい。