高齢化社会が急激に進む中、一般市民から街の薬局に「健康保持増進への取組支援」を期待する声が少なくない。
国は、健康サポート薬局に、かかりつけ薬剤師・薬局の基本的な機能を有し、地域住民による主体的な健康の保持・増進を積極的に支援する役割を定義づけているが、それ以外の薬局も一般市民の要望に耳を傾ける必要があるだろう。
では、地域住民の健康保持増進への取り組みを支援するには、薬局薬剤師はどのような手立てを考えればよいか。エビデンスに基づいた健康関連情報を収集し、啓発するのも重要な手立ての一環だ。
近年、必要不可欠とされる健康情報の一つに、わが国でもの凄い勢いで増加している胃癌、大腸癌の予防対策がある。胃癌は、年間12万人発生しており、そのうち5万人が死亡している。
注目すべきは、胃癌患者の平均年齢が70歳を超えている実情であり、胃癌検診は「定年退職後にしっかりと受けなければならない」ことを強く認識する必要がある。
また、胃癌の原因は、ピロリ菌感染で、ピロリ菌未感染胃癌は0.66%に過ぎず、ピロリ菌の未感染者は、ほとんど胃癌にならないと言ってよい。
一方、ピロリ菌感染者は、すぐに除菌を要する。だが、除菌すれば安心というわけではない。既に癌が発生している可能性があるためで、除菌して内視鏡検査を受けない患者が、5年も経つと進行癌で亡くなるケースも珍しくない。
胃癌の予防は、一刻も早くピロリ菌感染の有無を調べ、除菌者も含めた感染者は、内視鏡検査を受けることがキーポイントになる。
大腸癌も、年間5万人が命を落としている。その増加要因は、遺伝子の変異的なものではなく、生活習慣によるところが大きい。
疫学データでは、高脂肪、運動不足、肥満、アルコールが日本人の大腸癌リスクになっている。大腸癌予防には、薬局での「食事指導」や「内視鏡検査の受診勧奨」が大きな役割を果たすものと考えられる。
一方、今年の医学的知見に関わる大きなニュースとして、「自閉症関連疾患において母胎の腸内環境が大きな影響を及ぼす可能性がある」という報告が注目を集めている。
妊娠中のウイルス感染や肥満・痩せ、抗生物質の投与が、腸内フローラの異常を引き起こして自己免疫炎症を形成するTh17細胞を活性化させる。
その結果、活性されたリンパ球が腸から中枢に移行し、炎症を引き起こすことが自閉症関連疾患の原因になっている可能性がマウスとヒトで確認された。また、腸内フローラに関連する最近の疫学として、過敏性腸症候群(IBS)とうつ病との関連性が報告されている。
薬局薬剤師には、このようなエビデンスに裏づけされた最新の健康情報を積極的に収集し、一般市民に啓発する役割を担ってほしい。