国内製薬企業が力を注いできた医療用医薬品の販売情報提供活動が大きな転換点を迎えている。ディオバン事件やイグザレルト事件をはじめ、製薬企業のMRによる不適切なプロモーション活動に歯止めがかからず、国が主導する形でガイドラインが策定されることになった。
過剰な販促活動は以前からあり、厚生労働省も何らかの対応が必要と問題意識を示していたが、昨年度に実施した広告活動監視モニター事業でも不適切な広告宣伝活動は減らず、かえって違反事例が増えていることが発覚した。これまで業界では、日本製薬工業協会が医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインを策定し、遵守事項として自主的な取り組みを促してきたが、厚労省は業界の指針では不十分と判断。国として初めてガイドラインを策定するに至った。
海外では法令上の規定があるとはいえ、国内では製薬企業の自主的な取り組みにより不適切事例に対応できず、国が乗り出す形になってしまったことは残念だ。それだけに現在意見募集中のガイドライン案は、販促活動に用いる資材や活動の適切性を監視する部門を社内に設けることを要求し、MRなど担当者には誤解を招く恐れのある活動を禁じている。
さらに、経営陣の管理責任を強調し、製薬企業に求められる本来の責務という原点を判断基軸に自らを厳しく律した活動を求めるなど、箸の上げ下ろしまで指摘するような内容になっている。
まさに、異例の文言が盛り込まれていることこそが国の不信感の表れと言えるのではないか。
もっとも、国内製薬企業で早期退職募集が相次ぐなど、MRを取り巻く環境は様変わりしており、国のガイドラインも時代の必然と言える。2017年版のMR白書では、16年度のMR総数が初めての3年連続減少となった。新薬開発の難易度は上がる一方であり、より経営資源を新薬に振り向ける必要がある中、MRの減少傾向は一層加速するのは間違いない。
かねて厚労省幹部もMRに代わる医薬品情報提供のキーマンに薬剤師を挙げており、MR認定センターもMRが医療で果たすべき役割を抜本的に見直し、チーム医療から独立して医療関係者とは異なった視点で医療を支援する新たなMR像を打ち出す大きな方針転換を表明した。
今後は国内において、薬価制度抜本改革の影響も表面化してくるとみられ、特に新薬を出せない製薬企業にとって組織のスリム化は避けられないだろう。
ただ、逆に言えばこれまでは新薬を出せなくても、ほとんどの国内製薬企業は多くの販促人員を抱えながらも高い利益を得て、生き残ることができたわけだが、もはやぬるま湯に浸かっていられる時代ではなくなった。
今回のガイドラインは、医薬品の生命線である情報提供という活動の基本を見直す契機になるはずだ。それを、新薬を創出してこその製薬企業であるという使命の再確認につなげてほしい。