予想通り、2009年度政府予算に向けた議論は、社会保障関連予算削減の政府方針が焦点となり、早くも攻防が顕在化してきた。額賀福志郎財務相が「(削減方針は)揺るぎないものでなければならない」と原則論を展開、雇用保険制度の見直し方針を示し、財務省も介護保険制度の給付抑制の試算資料を示した。一方、舛添要一厚生労働相は「削減はもはや限界」と何度も主張している。
予算削減は財政再建の一環であり、社会保障制度を維持し、将来の国民の福祉のために確かに大事であるが、財政に偏重した議論はやめるべきだ。社会保障制度そのものの信頼を危うくし、制度を壊す力学が働く恐れがあるからだ。
それを、後期高齢者医療制度に対して誤解を含む否定的反応が巻き起こっていることから学んでみたい。
同制度は、医療費の膨張に誰も責任を持たず、歯止めなく現役世代の負担が重くなる旧老人保健制度の欠点を改善するものであり、言われるほど悪い制度ではない。疾病にかかる確率が高い後期高齢者だけでは保険制度として運用できないため、公費を5割、国保・被用者保険からも支援金として4割を投入した方向も妥当だ。
とはいえ、特にこれまで被扶養者だった人に新たな負担が生じ、年金から天引きをすることに鋭い反発が起きたことは、やや予想外ではあった。これは、高齢者が置かれた経済状況に相当配慮しなければならないことを示唆している。
高齢者の経済状態は、今月発表された内閣府の「高齢者の経済生活に関する意識調査」(55歳以上が対象)に一端が示されている。「現在の暮らしに経済的に心配がある」者は4割弱で、前回の01年度調査と比べ1割増えている。
過去1年で大きな割合を占める支出は「健康維持や医療・介護のための支出」を挙げるものが4割強に上り、最も多い。
収入の全てを公的年金に頼っている60歳代以上の夫婦は5割強で、年金だけでは生活には不足という者は6割弱に上り、これも前回調査より1割増えた。税・社会保険料負担も「重い」とするものが7割。今後、社会保障の負担増は「やむを得ない」とする者は4割弱いるが、前回より60歳代で約8ポイント減ったことにも留意すべきだろう。
生活、支出増に対する不安の強さが表れている。調査対象外だが、40歳代以下の世代も、給与は上がらない一方で教育費や物価が高くなり、社会保障負担、親の介護や失業の不安が常についてまわっていることは多くが実感として持っている。
後期高齢者医療制度による負担増に被保険者が敏感に反発し、社会も呼応したのは、切迫した経済状況が背景にあると思われる。その点からすると、財務省の介護保険の給付抑制試算や雇用保険見直し方針も、配慮が欠けているように思える。いま給付を受ける人たち、そして現役世代にも将来への不安をあおるメッセージになりかねない。
不安を高めてしまっては、政府や制度そのものへの信頼を崩しかねない。社会保障関連予算の削減は機械的に進めるのではなく、削減幅の圧縮や財政再建スケジュールを見直すなど、柔軟な対応をとるべき局面を迎えているのではないか。