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緩和ケア、産官学の啓発事業に期待

2008年05月16日 (金)

 がん対策基本法が施行され、1年余りが経過した。その後、がん対策推進基本計画が策定されたのをはじめ、都道府県ベースでも、がん対策事業推進を目指した「都道府県がん対策推進計画」が作成、公表されつつあり、日本の癌対策は大きく転換しつつある。

 一方で、一連の行政の動きに伴い、癌性疼痛緩和のさらなる普及を目指し、行政、医療関係者等による取り組みが始まっている。

 その一つに厚生労働省が日本緩和医療学会に委託した、オレンジバルーンプロジェクトがある。「緩和ケアは死を待つだけの諦めの医療」などといった誤った考え方を改め、「緩和ケア」の正しい知識を持つことを目的とした普及啓発事業を進めようとするのが、このプロジェクトの趣旨だ。

 また、製薬業界でもこうした動きに呼応した活動が始まっている。塩野義製薬、帝國製薬、テルモ、ヤンセンファーマの4社が設立した「がん性疼痛緩和推進コンソーシアム」がそれだ。癌の痛み治療の啓発活動を企業団体として統一し、日本の癌性疼痛緩和の普及・推進を図ろうというのが大きな狙い。いずれにしても、産官学が連携し、スクラムを組もうとしている点で、こうした動きは注目されるものといえよう。

 そもそも、日本の癌の痛み治療の現状を示す「除痛率」は40%前後とされる。WHOが目標値として掲げているのは80090%であり、その数字と比べれば、日本の数字は著しく低い。日本の癌性疼痛緩和への対応が諸外国に比べ、未だ不十分と言われるのもそのためだ。

 癌の痛みは、医師の処方する内服の医療用麻薬で90%以上和らげられるといわれている。それにもかかわらず、この事実を知らずに、痛みで苦しんでいる癌患者はまだまだ多いというデータもある。どうしてこのような状況になっているのだろうか。

 専門家によれば、その背景には一般の人たちが「麻薬」という言葉から、「中毒になる」「死期を早める」などのイメージを持っているためだという。

 こうしたことを受けて、塩野義製薬は昨年9月、癌の痛み治療に関する啓発CFを制作した。癌の痛みは内服薬で除くことができるという事実を、少しでも多くの国民に知ってもらうためだ。

 550GRP(延べ視聴率)であり、大々的に放映したわけではなかった。しかしその後、全国1万人に対して実施したリサーチ調査では、550GRPでは通常20%前後の認知度しか得られないにもかかわらず、認知率が47・5%にまで達するなど大きな反響があった。

 同社では「癌の痛みをのみ薬でとることができる」という事実を知ってもらう所期の目的を達成できたと評価。今年も、5月に入ってから昨年と同様の啓発CF第二弾をスタートさせた。約1カ月放映する予定だ。

 緩和ケアを国民全体の問題として盛り上げるには、産官学がそれぞれの立場から情報発信し、協調していくことが重要だ。

 そして、こうした取り組みの効果を上げるには今後、緩和医療を専門とする医療従事者だけではなく、癌診療に携わる臨床医やコ・メディカルはもとより、広く医療関係者、患者・家族、さらに国民的なレベルの理解と協力が望まれるところで、様々な対象への啓発活動や教育・研修活動も必要だろう。

 今や国民の2人に1人が癌に罹るという時代だけに、こうした産官学の啓発事業に期待したい。



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