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スイッチ機に薬局が生活者支援を

2025年10月03日 (金)

 今年8月と9月に、二つの医療用医薬品がスイッチOTCとして薬局で販売することが了承された。緊急避妊薬「ノルレボ」(一般名:レボノルゲストレル)と、勃起不全(ED)治療薬「シアリス」(一般名:タダラフィル)」である。これらの出来事は、医療アクセスの柔軟性を高めると同時に、薬局薬剤師が薬の専門家だけにとどまらず、生活者の健康支援者へと変化する岐路に立ったと言える。

 緊急避妊薬は、性交後72時間以内に服用することで妊娠を防ぐ。望まない妊娠のリスクを軽減する重要な選択肢だ。厚生労働省は、ノルレボのスイッチOTCを医薬品医療機器等法改正で新設した「特定要指導医薬品」に指定し、「面前服用」での販売を原則化した。薬剤師がその場で服用を確認する必要がある。

 厚労省指定の研修を修了した薬剤師が対応して、プライバシーへの配慮、近隣の産婦人科医との連携体制の構築も求められる。販売に際して年齢制限は設けられず、性交同意年齢未満(16歳未満)であっても親の同意は不要とされた。その意味では、販売時の薬剤師には高度な倫理観と対話力が必要になるだろう。

 一方、「シアリス」申請企業のエスエス製薬は、日本新薬から製造販売権の許諾を受け、正規品としての流通体制を整えた。

 この背景には、ED治療薬の個人輸入による健康被害の問題が少なからずある。インターネットを通じて個人輸入されたED薬の中に、有効成分の含有量が不適切なものや偽造品、健康被害を引き起こす粗悪品も確認されている。

 こうした状況は、自己判断による服用のリスクを高め、医療安全の観点からも看過できないものだ。今回、スイッチOTC化の了承により、薬剤師による対面販売と適切な説明が義務付けられ、安全性の担保された正規品を信頼できる専門家から入手できる環境が整うことは歓迎できる。

 ただ、販売する薬局薬剤師も性教育や心理的支援に関する実践的な研修などを積んでいくことが必要になる。薬局でのプライバシー確保のための設備や相談体制の整備も急務だ。

 薬剤師の業務が対物から対人へとシフトする中で、これら薬剤の販売時にセンシティブな相談対応を担うことにもなり、人的・時間的リソースの逼迫なども課題となるかもしれない。

 いずれにしても、薬局が単なる薬の提供場所ではなく、社会的支援のハブとして機能するためには、薬剤師の専門性と人間性の両立が不可欠になるだろう。生活者の不安に寄り添い、適切な情報と選択肢を提供するナビゲーターとしての役割を担う覚悟が求められる。

 今回の二つの薬剤のスイッチOTC化を契機に、薬局薬剤師においては倫理観や判断力を磨き、生活者の支援者へとさらに進化していくことを期待したい。



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