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薬剤師職能の“見える化”急げ

2019年10月04日 (金)

 「薬剤師の存在価値を社会に認めてもらうには、その価値を具体的な数値で示したエビデンスが必要だ」という意見をよく聞く。この主張は裏を返せば、現在はそのようなエビデンスはあまり存在しないことを意味している。特に薬局薬剤師のエビデンスは少なく、エビデンスを創出する意義を多くの薬局薬剤師が理解し、行動を起こすことが求められている。

 海外では、薬局薬剤師の関与によって糖尿病患者の血糖値が改善したり、高血圧患者の血圧コントロールが良好になったとの報告がある。薬剤師が関わった成果を具体的な数値で示すことによって、それが地域全体に広がるほか、業務に報酬が発生し、薬剤師の権限強化などにつながっているという。

 生活習慣病など慢性疾患の患者数が増え、医療財政を圧迫しているのは先進各国に共通する課題だ。医師の数が不足する中、薬局薬剤師の関与によって効率的で質の高い医療を実現できれば、国にとってもメリットがある。こうした背景に加え、海外では薬局薬剤師自身にも職能への危機感があり、エビデンス作りが進んだようだ。

 海外を参考にして、日本でも薬局薬剤師のエビデンス創出に向けた取り組みが進んでいるものの、まだ一部の有志による動きに過ぎない。

 エビデンス作りが進まない最も大きな要因は動機だろう。都市部では薬剤師が充足しつつあるが、依然として多くの地域では薬剤師が不足している。

 薬局薬剤師が職場を失い、収入が大きく減る事態には陥っていない。雇用が安定しているため、現状に満足してしまい、何かを変えようとする動機が生まれにくいのではないか。

 もう一つの要因は、臨床研究の経験だ。エビデンスを創出するには臨床研究が必要だが、多くの薬局薬剤師は臨床研究に取り組んだ経験に乏しい。質の高い業務を実践している薬局薬剤師は各地に存在し、日常業務で様々な成果を生み出しているはずだが、臨床研究で数値化されなければ目には見えづらい。

 先日、神戸薬科大学で開かれたシンポジウムでも関係者から「薬剤師として患者のために何ができるのか、エビデンスを示してほしい。それがないことには評価に値するかどうかが分からない」などの厳しい声が飛んだ。

 医薬分業の進展に伴い、薬局薬剤師には多額の医療費が流れ込んでいる。薬剤師には、その費用に見合う業務を行っていることを国民に説明する責任がある。

 薬剤師の職能を拡充する上でも、職能を守る意味でも、エビデンスは重要だ。調剤報酬が削減され、危機的な状況になってからエビデンス作りに取り組むのでは遅すぎる。薬系大学との連携を深めるなど環境を整備し、薬剤師職能の“見える化”に向けて直ちに行動を起こす必要がある。



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