日本のアカデミアによる世界初の成功例が相次いでいる。7月には防衛医科大学校、早稲田大学、奈良県立医科大学が世界初の止血ナノ粒子(血小板代替物)と酸素運搬ナノ粒子(赤血球代替物)を用いた重度出血性ショックの救命蘇生に成功したと発表した。
血小板が減少したウサギの肝臓を傷つけて、大量出血で死に至るモデルを作製し、止血能と酸素運搬能を持った2種類のナノ粒子を静脈内に投与したところ、効率的な止血と虚血の回避によって、救命に成功したことが報告されている。
人工血液の開発に成功したとの一部報道もあったが、あくまでも赤血球と血小板の代替物であり、白血球は含まない。ウサギで成功した段階だが、常温で1年間保存でき、血液型を問わないことから、ヒトに使えるようになれば、事故や災害で発生した大量出血患者を救命できることが期待される。
8月には、大阪大学大学院医学系研究科のグループが、世界初のヒトiPS細胞から作製した角膜上皮細胞シート移植に成功した。人工多能性幹細胞であるiPS細胞由来のシートを用いた臨床研究であり、初の移植患者は退院している。
記者会見では、患者の視力は日常生活に支障がない程度まで回復し、拒絶反応も現在までのところ見られないと報告された。
臨床研究の主要評価項目に安全性を挙げており、今後は安全性と有効性を確認して治験につなげ、標準医療に発展させることを目指していくという。
標準医療として確立されれば、ドナー不足、拒絶反応などの課題を解決でき、革新的な治療法として角膜疾患で失明状態にある多くの患者の視力回復に貢献できることが期待される。
9月には、東京医科歯科大学統合研究機構の先端医歯工学創成研究部門・創生医学コンソーシアムのグループが、アメリカのシンシナティ小児病院との共同研究で、ヒトiPS細胞からミニ多臓器(肝臓・胆管・膵臓)の作製に成功したと発表した。
この研究では、胎内で肝・胆・膵領域が発生する過程を模倣することによって、世界に先駆けてiPS細胞から連結した複数の臓器を同時発生させる技術を確立した。多臓器形成に異常が生じる遺伝疾患を試験管内で再現することにも成功した。
将来、このような「多臓器創生」という革新概念に基づく移植手法が確立されれば、臓器移植を待つ多くの患者救済につながる再生医療の実現に貢献するとされている。
様々な再生医療関連の研究成果が出てきている。世界中の患者にとっては福音となるわけだが、これらの技術が統合された場合、どの程度までヒトの臓器などを再生、創生していいものなのか議論になってくるだろう。倫理面での議論はこれからの重要な課題である。