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大きな一歩踏み出した緊急避妊薬

2025年09月05日 (金)

 緊急避妊薬のOTC化が日本でもついに実現した。

 「ノルレボ」(一般名:レボノルゲストレル)について、薬局で直接購入できるようになったことは、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の観点からも大きな前進である。薬剤師の対面販売が必要な「特定要指導医薬品」としての承認了承となったが、年齢制限や保護者の同意も不要とされた。女性の健康へのアクセス改善に向けた重要な一歩と言えるだろう。

 緊急避妊薬は性交後72時間以内との時間制限があり、迅速に正しいタイミングで服用することがカギになる。厚生労働省によると、販売は今年度中にも開始できる可能性があるという。今後、日本薬剤師研修センターによる研修を修了した薬剤師のみが薬局で販売できるようになる。

 ただ、日本では薬剤師の面前での服用が義務づけられたことで、購入者の心理的負担につながり、アクセスの障壁になる可能性も懸念されている。厚労省調査によると、英国、ドイツ、フィンランド、インド、米国などでは薬剤師の販売時に一定の説明や指導は求められるが服用は購入者の判断に委ねられ、面前服用は義務づけられていない。

 この世界標準とは異なる例外的な措置に対して、実際に性暴力の被害者や若年層にとって、薬局での面前服用は心理的ハードルとなり得る。市民団体からは「プライバシーの侵害」との指摘もあり、今後はより人権に配慮した対応も求められてくるだろう。

 また、既に地域の薬局では、女性のヘルスケアや性教育に関する情報発信を積極的に行う薬剤師も出てきており、薬局が地域の公衆衛生を担う拠点として機能する可能性を秘めている。こうした取り組みは薬局、薬剤師の信頼性を高めるだけでなく、薬剤師の職能を社会に広くアピールする好機にもなる。

 緊急避妊薬のOTC化は、世界に遅れながらも日本が踏み出した大きな一歩である。面前服用という条件が付いたものの、薬剤師の研修体制を強化することによって条件の緩和に向けた道筋を探り、さらに柔軟で人権に配慮した取り組みへと進化させていく必要がある。

 そのためには、薬局での緊急避妊薬の販売と合わせて、薬剤師を養成する薬学教育での意識醸成も欠かせない。今の薬学教育では、SRHRや女性の健康に関する科目は一部にとどまっているのが現状だ。緊急避妊薬の販売に限らず、月経、妊娠、更年期など女性のライフステージに応じた健康課題に対応できる薬剤師の育成にも目を向けていかなければならない。

 将来的には、全ての薬剤師が女性の健康と公衆衛生に貢献できるよう薬学教育の中にSRHRの視点を取り入れた科目の整備を検討していくべきではないか。緊急避妊薬の販売を女性を守る薬剤師の裾野を広げていく良い機会と捉え、信頼を獲得できる活動に昇華させていってほしい。



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