病院・薬局経営の悪化には医薬品も関係している。地方では医療機関、薬局が倒れ、必要な治療が患者に届きにくくなるケースもある。経営悪化で必要な薬物治療が継続して提供できるのだろうかと心配になる。杞憂であってほしいが、現場は逼迫している。
病院・薬局の経営悪化に、診療(調剤)報酬など医療保険制度上の対策が検討されている。他方、製薬企業、医薬品卸も、医療現場の負担、手間を減らす観点から支援できることがあるのではないか。
そこで薬局経営を見ると、インフレ、薬価差益の減少、後発品などの汎用品の逆ざやが悪化の3要素で、2要素が医薬品関連。インフレは、水道光熱費など諸経費、人件費の増加に加え、賃貸物件なら賃料上昇が収益を圧迫する。
日本薬剤師会がまとめた「薬局の経営状況等について」では約3割の薬局が赤字だった。薬剤師による後発品の普及促進でレセプト請求の薬剤料は減少傾向だが、医薬品購入費は上昇。約8割が今後1年も悪化すると見ている。
また、「平均乖離率は5.2%まで縮小しており、薬局では備蓄品目、高額薬剤の増加により、医薬品の管理コストや廃棄損耗費が増大している。こうした負担に見合う補填はなく、多くの薬局がそのコストを自ら抱え込まざるを得ない」と説明している。
薬局経営者からは「薬価差ゼロは当たり前。逆ざやも発生している。高額薬剤は保険者から支払いまでは個人の貯金を取り崩す場合もあり、在庫を抱えると命取り」と悲痛な声が上がる。
次に病院経営だが、厚生労働省のまとめでは、法人の5割超が赤字だ。医業収益のうち医薬品を含む材料費(約21%)と給与費で7割を超える。薬剤費は上昇傾向という。
材料費比率を地域別で見ると、大都市型病院18%、地方都市型病院17%に対し、人口少数地域型病院は15%で、医薬品費比率は他の2タイプと比べ0.5ポイント以上低い。必要な薬を使えているのか気になる。
近年、地方では院内人材の確保も難しくなっている。働き方改革で業務効率化が求められ、治験や患者への薬剤デバイス説明に人手を割きにくくなっているとも聞く。
これらの病院・薬局経営の状況に対し、必要な薬物治療提供の一端を担う医薬品産業側からも、できることを考えたい。
米国の話だが、エーザイが10月にも発売する早期アルツハイマー病治療薬「レケンビ」の維持療法における皮下注製剤の投与時間は、点滴静注で約1時間かかるところ、約15秒で完了する。医療機関でのベッド確保や患者見守りの負担軽減が見込める。
このような医療現場の負担を軽減する剤形開発は現場から歓迎される。
また薬局の課題に見られる逆ざやの解消はもちろん、在庫リスクを低減する包装、在庫管理支援など、支援の余地はあるのではないか。