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災害大国、「常在有事」の時代に

2019年10月18日 (金)

 3連休を襲った大型の台風19号は東日本各地を直撃し、大きな爪痕を残した。長野県で千曲川が決壊し、甚大な浸水被害が発生したほか、都市部でも東京都と神奈川県を流れる多摩川が氾濫。世田谷区や川崎市などで浸水被害が広がった。特に栃木県では非常に多くの河川で被害があり、8年前の東日本大震災で被害を受けた宮城県、福島県も水害に遭うなど、「災害列島日本」を改めて裏付ける大型台風の襲来となった。

 今回、台風19号による豪雨で越水した河川は100を超えるとされ、氾濫の警告であふれた河川マップを眺めると、一級河川から地域の小さい川まで、いかに国民の生活が水に囲まれているかを痛感させられる機会になったと言えるだろう。

 都市部では河川の氾濫と共に、下水道の雨水排水能力を超えた内水氾濫という事態も発生。浸水によりマンションの地下の配電盤が壊れ、停電や断水が起こるなど、都市部における新たな問題が浮かび上がった格好にもなった。

 広範にわたる大規模な水害の問題は、水が完全に引いた後が本番となる。浸水などの水害時には、下水や糞尿、腐敗物が付着するなど衛生状態の悪化が最も懸念される。水害を受けた壁面、床、家具、食器類などを運び出すときに、飲み水や手指を介して感染が起こったり、伝染病の危険もある。

 こうした水害時の衛生状態を管理するため、薬剤師が活躍できる余地は大きい。実際に全国の各薬剤師会は、正しい消毒方法に関する情報発信を行っている。屋外や屋内などの消毒対象、それに適した消毒薬と調製方法、使用方法を紹介しており、まさに薬剤師の専門知識が地域の公衆衛生を守る強い味方となるはずである。

 東日本大震災でも甚大な津波が襲った後の水害や長期化する避難生活で衛生状態の悪化が問題となった。災害に精通した薬剤師ボランティアがまず対応したのも、避難所を巡回しての衛生状態の改善であった。アルコール手指消毒剤を均等に配置し、トイレの衛生状態を見直すなど、薬剤師の視点で改善できる部分は多かった。長期化する避難生活では、特に衛生状態を保つことが被災者の健康に直結してくるだけに、薬剤師などの専門家が常に先手を打っていくことが重要になる。

 それでも、災害時の初動は極めて難しい。当然、医療者が被災者となっている地域もあり、混乱の中で情報発信を含めていかに災害の専門家、薬剤師会が秩序立って感染を予防、制圧し、衛生状態を管理していくことができるかにかかっている。

 昨年の西日本豪雨の記憶からわずか1年、その前からも毎年のように豪雨被害が襲う日本列島。「備え」の重要性は国民に浸透してきているが、もはや災害時の対策ではなく、常在有事の対応が必要な時代になってきているのかもしれない。



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