2020年度は製薬業界にとって多難な1年になる可能性が高い。4月1日から実施される薬価改定を受け、国内製薬企業は日本市場の戦略見直し、海外展開へのシフトを迫られるだろう。18年4月の通常改定、昨年10月の消費税増税に伴う薬価改定に続き、3年連続での薬価引き下げがもたらすダメージは計り知れない。
長期収載品の特例引き下げに加え、売上規模の大きい新薬がターゲットとなり、日本での事業予見性がますます見えづらくなっている。国内製薬産業の競争力低下が危惧される状況で、各社は新型コロナウイルスの対応で事業活動を制限しており、今後も厳しい局面が予想される。
今回の改定では薬価ベースで平均4.38%引き下げられた。18年度改定の平均7.48%に比べると引き下げ幅は小さかったが、昨年10月の改定分と合わせると同等の影響を受けたと言える。特に年間売上高が予想販売額を上回り、一定の売上規模のある先発品については、再算定ルールの仕組みが強化され、大きく引き下げられた。
新薬中心の大手企業と長期収載品に依存する中堅企業の格差が広がった18年度改定とは状況が異なり、再算定が適用された新薬を持つ上位企業で業界平均を上回る引き下げとなった。特に中外製薬は、市場拡大再算定を受けた自己免疫疾患治療薬「アクテムラ」や抗癌剤「パージェタ」が大幅な引き下げを受け、9.2%の改定率と大きな影響を受けた。
中外は昨年、過去最高の売上・利益を達成するなど好調だった。小坂達朗CEOは、1月の決算説明会で、「国内市場はわれわれの本丸で、今後も最重要市場になる」との認識を示しつつも、「将来的には海外売上比率が50%以上になる可能性がある」と述べ、日本での成長は限定的とした。
高騰する医療費を薬価の引き下げで抑制する手法には、製薬業界から強い反発が出ている。製薬各社が日本市場での医薬品開発戦略の見直しを行えば、海外で承認された新薬が日本で承認されないドラッグ・ラグが再来する可能性も指摘される。薬価制度改革によって日本の医療現場に悪影響が出ていないかを注視していかなければならない。
医療財源が限られる中、費用対効果のエビデンスが十分でない売れすぎた先発品の薬価が引き下げられるのは致し方ない。各社は医薬品によってもたらされる患者やその家族に対するベネフィット、社会的な波及効果を国民にも分かりやすいエビデンスとして示していく必要がある。
新型コロナウイルスによる企業活動への甚大な影響も予想される。中国などからの原薬調達も含め安定供給に支障を来す可能性もある。危機を乗り越えるためには、国や業界団体が力を合わせ、患者への医薬品アクセス、安定供給を確保するための対策を真剣に考えるべきだ。