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夜明け近いデジタル治療産業

2020年07月10日 (金)

 医薬品以外の治療手段としてデジタル治療が登場し始めている。国内ではキュア・アップが開発した禁煙治療用アプリの承認が了承され、米国ではアキリ・インタラクティブによる注意欠陥/多動性障害(ADHD)治療用ビデオゲームが初めて承認された。

 参入障壁が高かった治療領域に異業種企業がゲームチェンジャーとなって進出したことは、製薬企業に対する挑戦状とも読める。製品として成功すれば参入するプレイヤーは増え、将来的には医薬品市場の勢力図を変える可能性がある。

 両製品は、対象疾患を治療するソフトウェア医療機器として臨床試験を行い、対照群に対する有効性を示した。患者の生活や健康管理に介入し、治療効果をもたらすアプリやゲームによる治療方法は、薬物治療のあり方にも一石を投じる。

 薬物治療は低分子医薬品から抗体医薬、細胞治療、遺伝子治療と多様化し、未充足な治療ニーズに対応してきた。ただ、発展を続けた先に直面したのが医療経済性の問題である。持続可能な社会保障制度をめぐる議論が進む中で薬剤費削減の圧力は強く、医薬品の価値には社会からの厳しい視線が注がれている。

 それに対して、デジタル治療は医薬品に比べると低コストで開発可能で副作用リスクも小さいため、医療を最適化する手段になる。疾患や患者の症状に応じて、医薬品とデジタル治療を組み合わせて使う治療方法も検討されていくに違いない。

 デジタル治療の有用性が医薬品を上回ると判断されれば、市場から淘汰されてくる薬剤も出てくる。

 利用するユーザーとなる患者データを容易に収集できるのも医薬品にはない特徴で、医師は患者の状態をモニタリングしやすくなる。ユーザーと開発企業がつながり、製品開発から改良のサイクルを回して治療成績を上げていく。新たな医療の扉を開ける予感もある。

 ただ、越えなければならないハードルも多い。デジタル治療がビジネスとして成立するためには、保険償還の評価が焦点になる。

 医薬品とデジタル技術を組み合わせたデジタルメディスンでは、大塚製薬と米プロテウスデジタルヘルスが共同開発した抗精神病薬「エビリファイマイサイト」が米国承認を取得し、大きな注目を浴びたものの、売上が拡大せず、プロテウスは経営破綻に追い込まれた。

 技術的な問題では、ソフトウェアの医療機器として安全で有効に使ってもらうため、上市後には頻回のアップデートを行わなければならない。こうした品質管理の仕組みを確立するまでには、まだ時間がかかりそうだ。

 デジタル治療産業は依然として夜明け前の状況にあると言える。それでも、現在の医療に問題提起するという意味で、最初の製品が登場してくる意義は大きいはずである。



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