グローバルに感染が広がる新型コロナウイルス感染症の抑制に向け、世界各国の研究機関や企業でワクチン開発や治療薬候補の探索が進められている。国内では、5月に抗ウイルス薬「レムデシビル」が特例承認されたものの、効果のある標準治療は確立されていないのが現状である。こうした中、日本の臨床現場で、いわゆる西洋薬と共に併用される頻度の高い漢方薬を用いた新型コロナウイルス感染症の治療効果検証に向けた取り組みが始まっている。
日本東洋医学会は4月、新型コロナウイルス感染症の一般治療に関する観察研究に協力を求める緊急告知を行った。軽症から中等症の患者(疑い含む)に対する西洋薬、漢方薬治療による症状緩和、重症化抑制に関する多施設共同後ろ向き観察研究で、対症療法と重症化の関連を明らかにすることが目的だ。
治療後に、実施した西洋薬や漢方薬などの使用による対症療法の内容を、14日目までの症状の推移・重症化指標を匿名化された症例登録表に記入。漢方医は漢方医学的所見も記載する。これらを集計してデータベースを構築、解析して重症化と選択した対症療法との関連性を明らかにし、新型コロナウイルス感染症治療に役立つよう広く情報発信していくという。観察研究の予定症例数は1000例で、研究期間は2023年3月までを予定している。
一方、北里研究所は8月、新型コロナウイルス感染症治療薬の早期発見に向けたプロジェクト「COVID-19対策北里プロジェクト」の一環として、北里大学東洋医学総合研究所を中心とした「漢方プロジェクト」を開始したと発表した。
漢方薬を新型コロナウイルスの感染予防と治療に広く利用することで、その有用性を検証するため同研究所が有する情報を公開し、医療機関からのフィードバックを募るというものだ。
具体的には、漢方医学的側面から▽感染予防▽発症予防▽(軽症者に対する)重症化の阻止▽(中等症以上者に対する)肺炎の克服(救命含む)▽(回復期における)体力回復・後遺症症状の緩和――とステージを五つに分類。
例えば、感染前や無症候性キャリアの発症予防では「補中益気湯エキス」など、それぞれのステージにおける具体的な漢方治療を提案・実施し、実施症例報告の収集や解析、有効な漢方薬の基礎医学的エビデンスの構築を行う。ステージごとの提案の有用性を検証するため、後ろ向き観察研究を予定している。
新型コロナウイルス感染症の症状は多様であり、無症候の感染者が存在するかと思えば、合併症やサイトカインストームを起こして重症化したり、回復後の後遺症なども報告されている。
これら症状の改善に対しても、多成分を含み全身を調整することで本来の健康を回復させる漢方薬の可能性に期待したい。