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AMR薬の持続的開発へ議論を

2020年09月11日 (金)

 1日に施行された改正医薬品医療機器等法で特定用途医薬品の指定制度が創設され、薬剤耐性菌(AMR)治療薬が医薬品医療機器総合機構(PMDA)による優先審査の対象に含まれた。社会的に重要な抗菌薬の承認審査を迅速化する意味では一歩前進とも言えるが、これだけでは開発促進策として心許ない。国として感染症領域の技術開発基盤を強化するためにもっと支援策を示すべきだ。

 感染症領域の研究開発をめぐっては、一つの品目に1000億円以上の研究開発費が必要になる一方、急性疾患のため、抗癌剤や難病に比べると薬価も低く、投与期間も短い。耐性菌治療薬を温存するため、適正使用の観点から売上拡大の追求も許されない。投資回収が難しくなり、スイス・ノバルティスや仏サノフィなど製薬大手が撤退し、昨年だけで抗菌薬開発バイオベンチャーが2社も倒産した。

 感染症対策は公衆衛生上の国家戦略となる。新薬開発に成功した企業が投資に見合った利益を確保できる薬価優遇策は必要不可欠だ。改正薬機法でAMR薬が優先審査の対象となったのを契機に、次期薬価制度改革では薬価の見直しを真剣に検討してほしい。

 保険償還の新たな仕組みも考えなければならない。使用量ではなく、新規抗菌薬を上市したことに対して、一定の対価が得られるモデルだ。英国では、商品ごとに購入金額ではなく一定の利用権として定額料金を支払うサブスクリプションモデルを2022年から試行導入する。スウェーデンも政府による買い取り保証制度を実施する方向だ。

 AMR薬を開発する企業を増やし、非臨床・臨床試験、上市後の安定供給を支える環境を構築していくためには、硬直化した薬価制度では対応に限界がある。柔軟な運用を考えてもいいのではないか。

 バイオベンチャーの育成も大事だろう。製薬大手だけにAMR薬の創薬を期待するのではなく、バイオベンチャーが生み出した候補化合物が開発され、上市される環境がなければならない。ただ、バイオベンチャーには基礎から臨床まで自力で開発する体力はない。製薬企業への橋渡しを行える産業構造へのシフトチェンジが課題になる。

 製薬23社・財団が主導し、抗菌薬開発企業に総額10億ドルを投資するAMRファンドが創設された。日本からも5社が参加した。

 いつ感染拡大が起こるか分からない新型コロナウイルス感染症に比べ、AMRでは感染拡大の予測が可能である。製薬業界が各国政府に期待しているのは、ファンドが運用される10年間のうちに、抗菌薬の研究開発が持続的に行われる創薬エコシステムの構築だ。

 日本では、製薬企業とベンチャーの連携が進まず、創薬エコシステムについては欧米から周回遅れにあるのが現状である。AMR問題を起点として、日本の研究開発力を高めるきっかけにしてほしい。



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