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コロナ禍、科学と政治の関係性

2020年09月18日 (金)

 英アストラゼネカが全世界で開発を進める新型コロナウイルス感染症ワクチン候補「AZD1222」の治験が一時中断された。英国の第III相試験に参加した健康成人1例から因果関係不明の有害事象が報告されたためだが、既に英規制当局によって安全性が確認され、治験は再開された。安全性を理由とした一時中断は通常のプロセスに則って行われたものであり、大きなプレッシャーの中で適切な判断が下されたと言える。

 現在、新型コロナウイルス感染症ワクチンだけでなく、治療薬も含めた開発が世界で政治案件化している。特にワクチンについては、ロシアと中国で開発に成功したと大々的に喧伝されているが、いずれも大規模な最終試験前に投与されるなど、欧米から懸念の声が上がっているのも無理はない。

 米国でも大統領選の選挙運動が過熱する中、トランプ大統領が11月3日の投票日前のワクチン実用化に言及しており、FDAも早期開発への「ワープ・スピード作戦」を展開し、緊急使用許可を推進する姿勢である。

 こうした中、米ファイザーや英アストラゼネカなど、新型コロナウイルス感染症ワクチンを開発する製薬大手9社は、第III相試験で有効性と安全性が証明されなければ、承認申請や緊急使用許可申請を行わないとする共同声明を発表した。開発競争に鎬を削る競合他社が一致結束した異例の声明であり、それだけ各社がワクチン開発に対してプレッシャーをかけられるような風潮に危機感を強めた結果と言えるだろう。

 製薬大手が科学を重視する姿勢を鮮明にしたことは、世界に対して製薬企業の使命と役割を訴える大きなメッセージとなる。ワクチン供給を受けるであろう世界各国の市民にとっても心強いはずだ。

 日本でも、抗インフルエンザ薬「アビガン」の新型コロナウイルス感染症を対象とした承認をめぐって政治に翻弄された。治験が終了していないにも関わらず、5月中の承認に突き進んでいたことに無理があったが、観察研究の中間結果で「科学的評価は時期尚早」と評価され、アビガンの早期承認はなくなった。

 4月には、大阪府知事が大阪大学発ベンチャー「アンジェス」が開発を進める新型コロナウイルス感染症ワクチンについて「9月に実用化」とぶち上げた。通常の開発プロセスを考えれば無理な話であることは関係者であれば当然の話だった。その後も大阪では「イソジン騒動」が起こり、二度も政治が科学を軽視した混乱劇が繰り返された。

 新型コロナウイルスの感染者増に歯止めがかからない中、治療法の開発は世界的な最優先事項となっているだけに、政治的な思惑が科学より優先されるようなことはあってはならない。今回の共同声明は、製薬大手が科学においては共同戦線に立っていることを全世界に示した。その意味の重さを噛みしめたい。



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