特定要指導医薬品とは、薬剤師による対面での販売・指導が特に必要とされる市販薬を指す新しい医薬品区分です。2025年の医薬品医療機器等法(薬機法)改正によって新設されました。
もともと2014年施行の薬機法改正で、処方箋なしで購入できる医薬品のうちインターネット販売には不適切と判断された品目を「要指導医薬品」として分類し、薬剤師対面下でのみ販売する仕組みが導入されていました。
2025年の改正では、この要指導医薬品について条件付きでオンラインでの服薬指導・販売が可能となる規制緩和が行われています。しかしその一方で、「適正な使用のため購入時に薬剤師が直接対面で確認・指導する必要がある」と厚生労働省が判断した一部の薬を「特定要指導医薬品」に区分し、引き続き対面でしか販売できないよう厳格化しました。
要指導医薬品、一般用医薬品(OTC)との違い
特定要指導医薬品を要指導医薬品、一般用医薬品(OTC)と比較した場合の位置づけを整理します。
一般用医薬品(OTC) | 薬局やドラッグストアで処方箋なしに買える市販薬で、第1類・第2類・第3類に分類されます。基本的にインターネット販売が可能であり、リスクに応じて情報提供の義務や販売資格者も異なります。例えば第1類医薬品はリスクが高めなので薬剤師の関与(対面での情報提供努力義務等)は必要ですが、要指導医薬品と違い非対面での販売も認められています。第2類・第3類はさらにリスクが低く、登録販売者でも販売可能です。 |
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要指導医薬品 |
2014年から設けられた区分で、「一般用医薬品ではない」扱いの市販薬です。新規性が高かったりリスク評価が定まっていない薬剤など、使用にあたり薬剤師の対面指導が必要なものが指定されます。
具体的には以下の3タイプが要指導に該当します:
要指導医薬品は販売開始当初は薬剤師対面下でのみ提供され、一定期間の安全性データ収集後に第1類医薬品へ移行することが想定されています。インターネット販売は原則禁止で、対面販売義務や様々な販売時ルールが適用されます。 |
特定要指導医薬品 |
要指導医薬品のうち、2025年以降もなお薬剤師による直接対面の管理下でなければ販売できないと指定されたものを指します。
改正により要指導医薬品全般ではオンライン服薬指導後に郵送など非対面で買える道が開けましたが、その枠から除外され、引き続き従来通り薬剤師の対面販売のみ許される特別なカテゴリーがこの特定要指導医薬品です。つまり、「特定要指導医薬品」=対面販売が絶対条件の要指導医薬品と考えると分かりやすいでしょう。 厚生労働省によれば、特定要指導医薬品に該当するのは「薬剤師の面前での服用が必要であるものや、悪用防止のため厳格な管理が求められるもの」など、販売時に特に慎重な対応が欠かせない医薬品です。 |
特定要指導医薬品は「対面販売限定」
特定要指導医薬品に指定されたものはオンラインでの購入ができません。薬剤師と購入者が直接会ってやり取りしないと販売できない扱いです。2025年以降、通常の要指導医薬品は条件付きでオンライン服薬指導・販売が解禁されましたが、特定要指導医薬品はその例外として対面のみとなります。
特定要指導医薬品が新設された背景には、セルフメディケーション推進による利便性向上と、安全対策のバランス調整があります。
要指導医薬品制度はもともと、「市販薬のインターネット販売を全面禁止するのは行き過ぎ」という司法判断(2013年の最高裁判決)を受けて、ネット販売できない一部品目だけ対面義務とする折衷策として生まれた経緯があります。その後、遠隔医療やオンライン資格確認などデジタル化の流れもあり、薬の販売指導もオンラインで完結できるようにしようというのが2025年改正の柱でした。
しかし、すべての薬をオンライン対応可とするには不安も残ります。例えば緊急避妊薬(アフターピル)の市販化に際しては「必ず薬剤師が対面で服用を確認し、適切使用を担保すべきだ」という意見が専門家から強く出されました。また、依存性のある成分や悪用される恐れがある薬剤についても、非対面では購入者本人確認や使用状況の把握が難しい懸念があります。こうした理由から、オンライン販売解禁の網から漏らすべき薬として特定要指導医薬品が設定されたのです。
特定要指導医薬品を学ぶ意義
特定要指導医薬品制度について理解を深めることは、これから現場に出る薬学生や経験の浅い薬剤師にとって非常に意義深いと言えます。その理由を最後に整理しましょう。
まず、薬剤師の専門性の発揮が期待されている区分であるためです。セルフメディケーションが推進される中で、市販薬の中にも高度な知識と注意を要するものが増えています。特定要指導医薬品はまさにその代表となる区分で、適切な販売・指導ができるかどうかで使用者の安全が左右されます。若手のうちからこれらの制度と実践対応を学んでおけば、患者さん(消費者)から信頼されるスキルを身につけられます。
次に、法律・制度の変化に対応できる柔軟性を養うという点があります。医薬品制度は時代に合わせて変化します。2014年に要指導医薬品制度がスタートし、2025年に特定要指導医薬品が加わったように、今後も新たなカテゴリーやルール改正があり得ます。学生の段階から最新の制度をキャッチアップし理解する習慣を付けておけば、現場に出てからもアップデートに強くなります。また、法律と実務がどう結びついているかを知ることで、単なる試験勉強では得られない実践的な判断力が磨かれます。例えば「この薬は特定要指導だから扱い方に気を付けよう」といったリスクアセスメントが瞬時にできるようになるでしょう。
さらに、患者教育・地域医療への貢献という観点も重要です。特定要指導医薬品を正しく提供するには、購入者への丁寧な説明とフォローが不可欠です。若い薬剤師にとって、対人コミュニケーション能力を鍛える絶好の機会と言えます。難しい内容をかみ砕いて説明したり、不安を汲み取って解消してあげたりする経験を積むことで、地域のかかりつけ薬剤師としての素養も身につきます。薬学生であれば実習などを通じて先輩薬剤師の対応を見学し、自分ならどう説明するか考えてみると良いでしょう。
まとめれば、特定要指導医薬品を学ぶことは「薬剤師としてワンランク上の対応力を身につける」ことに他なりません。知識面では専門的な薬学知識と法規の両方に精通する必要があり、スキル面では対人対応とリスクマネジメント能力が求められます。これらは若手のうちに意識して習得しておくことで、将来必ず武器になります。そして何より、そうした知識・技能は患者さんの安全と健康を守ることにつながります。自信を持って「この薬は自分に任せてください」と言えるよう、ぜひ積極的に特定要指導医薬品について学んでください。