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【第53回日薬学術大会】インタビュー‐新しい開催様式を模索へ

2020年10月07日 (水)

第53回日本薬剤師会学術大会

大会運営委員長 竹内 伸仁氏(北海道薬剤師会会長)
大会事務局長 遠藤 一司氏(北海道薬剤師会常務理事)

竹内大会運営委員長(右)、遠藤大会事務局長

竹内大会運営委員長(右)、遠藤大会事務局長

 第53回日本薬剤師会学術大会が「その先へ。―あなたに寄り添う心とともに(イランカラプテ)」をテーマに10、11の両日、札幌市の札幌市民交流プラザをメイン会場として開かれる。今大会は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で直接、会場に来ることができない関係者を考慮し、現地開催とライブ配信によるウェブ開催を併用したハイブリッド形式での開催とした。学会や研修会が中止に追い込まれる中、大会運営委員長の竹内伸仁氏(北海道薬剤師会会長)は、「この形での開催が良かったのか思い悩んでいる」とする一方で、「ウィズコロナ時代の新しい学会開催様式を模索し、来年の福岡大会に生かしてもらいたい」との思いを語る。大会事務局長の遠藤一司氏(北海道薬剤師会常務理事)と共に学術大会の概要について聞いた。

現地開催とウェブを併用‐初のハイブリッド形式で

 ――新型コロナウイルス感染症の影響で、学会や研修会の開催が相次いで中止となる中、学術大会の開催に踏み切った背景は。

 竹内 会場に来ることが困難な方が数多くいることを踏まえ、ウェブ開催(ライブ配信)を主体とし、現地開催も併用したハイブリッド形式での開催とすることにしました。

 実際、開催するかどうかについては、北海道薬剤師会内でも意見が割れました。今でも、この形での開催が良かったのか、思い悩んでいるというのが正直なところです。

 ただ、「ウィズコロナ時代」の学術大会のあり方を模索したいという思いが根底にありました。コロナ禍によって学会や研修会の中止が相次ぎ、専門職である薬剤師の学ぶ機会が失われているいま、何とかして学ぶ場を提供できないかということも考えていました。

 そうした中、7月に日本薬剤師研修センターがウェブ開催でも研修を受講すればシールを発行することを認めました。このことが最終的に学術大会の開催を決定づけました。

 遠藤 現地とウェブ開催をミックスさせたハイブリッド形式での学術大会は初の試みなので、次から次へと検討すべき案件がたくさん出てきました。その都度、議論するのですが、話が振り出しに戻ったりしてなかなか決まらないこともあります。

 全てウェブ形式の学会はありますが、今年の学会でハイブリッド形式で開催をしたところはほとんどないと思います。少なくとも薬剤師の学会でハイブリッド形式で開催したところはないでしょう。

 竹内 おそらく、来年の学術大会までに状況が大きく改善し、社会生活が変わるとは思えません。来年の学術大会で大会運営委員長を務める福岡県薬剤師会の原口亨会長も札幌での学術大会を参考にさせてもらいたいと言っています。今大会で課題や反省点を見つけてもらい、次の福岡大会に生かしてほしいです。

 ――大会の開催方式についてご説明ください。

 遠藤 ウェブ開催を中心に説明します。Zoomウェビナーを利用し、開会式・式典、特別記念講演、特別講演、13の分科会、共催セミナー、特別企画などをライブ配信します。

 参加登録した方のみが視聴できるようになっており、ログインの際、プログラム集に記載している「ログインID」と「パスワード」が必要になるので、保管しておいてください。

 一般演題は、現地会場での口頭発表を行いますが、口頭発表のライブ配信は行いません。ポスター発表は、PDF化した発表データをウェブに掲載し、会場でのポスター掲示、示説は行わないので、口頭発表で会場に来ることができない人はポスターに切り替えてもらうようにしました。

 分科会に関しては、今のところ、全ての演者が会場に来てくれる予定ですが、演者がどうしても来られなくなった場合はウェブで参加してもらうことも考えています。現地開催での分科会への参加は、会場が密にならないよう事前申し込み制にしました。

 既に現地開催の参加登録をしていた方で、当日、会場へ行くことができなくなった場合は、新たにウェブ開催に登録し直さなくてもライブ配信を視聴することができます。

 ただ、ウェブ開催で参加登録した方については、現地開催の参加登録への変更はできないことになっているのでご注意ください。

 道薬内でもリモート形式で会議を行っていますが、音声が途切れるといったハプニングはあります。事前に撮影したものを当日流すという形式であればあまり心配はないのですが、ライブ配信なので、そうしたことがないよう対策を考えたいと思います。

 なお、大会懇親会は中止し、事前に申し込まれた方には返金します。当日、会場での参加登録受付も行いませんので、ご了承ください。

北海道開催は22年ぶり‐特別記念講演、JAXAの大西氏

 ――北海道で日薬学術大会を開くきっかけは。

 竹内 3年前に東京で開かれた第50回大会の前日の都道府県会長協議会で今回の第53回大会を北海道で開催したいと宣言しました。

 当時、第54回大会の福岡、第55回大会の宮城県は手が挙がっていたのですが、東京オリンピックの開催が決まっていた年の53回大会だけは、開催準備に手間がかかりそうなこともあり、どこも手を挙げていない状況でした。

 道薬内で検討した結果、北海道で学術大会が20年以上、開かれておらず、道薬の将来を担う若手の薬剤師にとっても良い経験になるのではと考え、22年ぶりの学術大会開催に名乗りを上げたというわけです。

 学術大会は通常、10月の「体育の日」とセットで行われますが、開催を決めた後に、オリンピックの開催に合わせて10月の祝日を7月に移動させることが決まりました。

 そこで、改めて土日開催となった場合の可能性を検討した結果、全国からのアクセスが良い札幌であれば何とかなるだろうということになり、準備を進めてきたわけです。

 それに追い打ちをかけたのが新型コロナの感染拡大です。開催に向けて進めてきた準備が振り出しに戻りました。開催を決めてから、次から次へと難題が降りかかってきましたが、今は何としても大会を安全に成功させるという思いで、道薬が一丸となって前進しています。

 ――大会テーマ「その先へ。―あなたに寄り添う心とともに」に込められた思いは。

 竹内 昨年の山口大会のメインテーマとなった「原点」を受ける形で、未来の薬剤師像をイメージして「その先へ」をメインテーマにしました。

 サブテーマには「あなたに寄り添う心とともに」を据えました。「あなたに寄り添う心とともに」は、北海道の先住民であるアイヌの言葉で「イランカラプテ」と言います。「イランカラプテ」には、「こんにちは」というあいさつの意味のほかに、「あなたの心にそっと触れさせていただきます」という温かい心の意味が込められています。

 薬局での患者対応に限らず、在宅医療など、全てのケースにおいて患者さんの心に寄り添う薬剤師像をイメージしました。

 ――今大会の特徴やプログラムの概要について。

 遠藤 「その先へ。」というイメージを膨らませて、宇宙をテーマにした特別記念講演を企画しました。「国際宇宙ステーションでのミッションと将来の有人宇宙開発」というタイトルで、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士である大西卓哉氏に東京からリモート形式で講演いただきます。

 少しスケールが大きいかも知れませんが、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウの表面の土を採取してオーストラリア大陸に帰還するのが10~11月の予定なので、タイムリーな話題と言えます。

 タイムリーなものとしては、札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座の高橋聡教授による特別講演1「新型コロナウイルス感染症の検査と感染対策」が挙げられます。高橋先生は、北海道の新型コロナウイルス感染症対策を検証する有識者会議のメンバーにもなっており、興味深いお話が聞けると思います。

 また、特別講演3では、札幌大学の本田優子教授を迎えて、「アイヌの伝統的世界観と文化伝承」をテーマにお話しいただきます。

 堀安規良氏(ホリホールディングス代表社員)の特別講演2「薬剤師が菓子屋になって」も面白いと思います。同社は、「夕張メロンピュアゼリー」「とうきびチョコ」などのお菓子で有名すが、社長の堀氏は薬剤師の資格を持っていて、製薬企業に勤めていた経験もあります。最近では、お菓子を医学的・薬学的視点から捉えた新たな事業展開も考えているようです。

 分科会は、「薬機法改正を踏まえた地域医療における薬剤師のこれから―高齢者数がピークとなる2040年までを見据えて」でしょう。

 これからの薬局・薬剤師は地域包括ケアシステムの中でどのような役割、機能を発揮するのかが問われています。今回の法改正を機に自分たちがどうあるべきかを考え、実際の行動につながるきっかけになればと思います。

共催セミナーは18題企画‐参加人数は6000人見込む

 ――一般演題の応募状況について。

 竹内 例年では500~600演題程度あると思いますが、最終的に335演題(口頭87、ウェブでのポスター238、どちらでも可10演題)になりました。

 ――共催セミナーの応募状況は。

 竹内 今回、ランチョンセミナーは感染防止の観点から、食事の提供を行わないので、共催セミナーに名称変更しています。全部で11題企画していますが、事前登録で完売になったセミナーもあります。

 夕方に開催の共催セミナーは7題企画しています。満席になりそうなセッションもあり、多くの申し込みが来ている状況です。

 ――企業展示については。

 遠藤 各企業によって判断が分かれるところだと思いますが、来ていただく企業につきましては、展示会場のロイトン札幌で展示を行ってもらいます。ただ、会社の方針などでどうしても来れない場合はウェブ内で動画の配信や、PRを行ってもらうといった対応を考えています。

 ――大会ポスター、プロモーション・ビデオ(PV)について。

ポスター

 竹内 ポスターは、北海道医療大学薬学部の堀田清准教授に作ってもらいました。堀田先生は写真歴45年のベテランで、写真エッセイ集も出版しています。

 特徴は、北海道開催をPRするため、先住民アイヌ民族の文化を全面的に取り入れたことです。ポスターにはアイヌ文様をあしらい、メインカラーは伝統的なアイヌの服飾に用いられることも多い、紺色にしました。ポスター中央の花はトリカブトです。トリカブトの根は漢方薬の附子という猛毒で、アイヌ民族が熊狩りの際、毒矢として使用していました。

 大会のサブテーマに掲げた「イランカラプテ」と共に、北海道で大昔から自然と寄り添い、共生してきたアイヌ文化に触れていただき、新たな発見をする機会になればと思っています。

 PVは、アイヌ民族にカムイ(神)として崇拝されているシマフクロウをナビゲーターとして、北海道各地の四季折々の風景、薬剤師の日常を取り上げた動画になっています。

 ビデオ制作に当たっては、利尻島にある日本最北端の薬局に行き、その薬局で働く方々の姿も映像に収めました。厳しい環境で広大な地域の医療を支える薬剤師の役割をアピールしたいという思いからです。

 ――参加人数の見込みは。

 竹内 9月23日の時点で、現地開催の申し込みが1705人、ウェブ開催が4204人の合計5909人です。通常ですと8000~1万人規模の参加者数ですが、コロナ禍では現地とウェブを合わせて6000人くらい集まれば良いのではないかと考えていたので、何とか目標は達成できたのかなと思っています。

 9月16日でウェブ開催の参加登録を一旦締め切りましたが、9月30日まで延長することとしたので、もう少し増えるのではないかと期待しています。

 遠藤 学会によっては、ウェブ開催にしたことで例年より参加者が増えたところもあるようです。通常開催では、会場までの交通費や宿泊費がかかる上、勤務先の都合をつけなければなりません。ウェブ形式では、その心配もないので、学会によっては普段より参加者が増えているようです。

 9月20~22日の3日間、名古屋市で開かれる予定だった第30回日本医療薬学会年会は現地開催を断念し、24日からウェブ形式で開催することとなりましたが、事前に収録した動画を1週間程度、視聴することができるようになっています。

 日本薬剤師研修センターが受講シールの発行を認めているのはライブ配信のみで、事前に収録した映像を配信する形式は認められません。

 ウィズコロナの時代で、今後もライブ配信だけという方針であれば、準備する側は大変だと思います。役に立つ研修を提供できているかという視点で、もう少し柔軟な対応があってもいいのではと感じています。

 竹内 そこは来年の福岡大会の負担のことを考慮すると、ぜひとも提言したいところです。

会場の感染対策は最大限に

 ――最後に、全国の参加者に向けてメッセージを。

 竹内 緊急事態宣言が出されていた時期は、病院でも院内感染が起こらないよう、大勢が集まる会議は止めて、メールやチャットを使った会議に切り替えていたと聞きます。そうした状況下で開催するという決断を下すのは大変なことでした。

 おそらく、新型コロナの感染がすぐに収束することは考えにくいでしょう。われわれとしては、サーモグラフィの設置や手指消毒の徹底、マスクの着用義務づけなど、最大限に感染対策を講じながら、ウィズコロナ時代の新しい学会開催様式というものを模索したいと考えています。

 現地開催に参加される先生方には、自身の感染に注意しながらお越しいただきたいと思います。



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