日本病院薬剤師会が近く、タスク・シフティングの先進的な事例の周知を開始すると発表した。医師の働き方改革を進める国の意向を受けた取り組みで、厚生労働省の補助金を得て、昨年11月から事例収集に踏み切った。こうした動きを薬剤師職能拡大の好機と捉え、先進事例を参考にして、一つでも多くの医療施設で実践が始まることを期待したい。
近年、医師の勤務時間の長さや過剰な業務負荷が問題視されるようになってきた。2024年4月から、一般の業種では既に導入されている時間外労働の上限規制が医師にも適用され、勤務医の時間外労働時間が原則年間960時間以内となるよう各医療機関での取り組みが求められる。
国は、医師の働き方を改革するため、従来医師等が手がけてきた業務を他の医療従事者に移管するタスク・シフティングを推進。その一環として、日病薬は今年度から、厚労省の補助金でタスク・シフティングの先進的な事例を収集する事業を開始した。収集事例をデータベース化して今春頃をメドに公開するほか、先進的な好事例をウェブサイトやセミナーで会員に伝える計画としている。
昨年11月から事例収集を開始し、現時点で全国の医療施設から約50件の事例が集まっている。その多くが、プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の手法を取り入れたものとなっているようだ。
PBPMは、事前に作成したプロトコールに基づき、薬剤師が医師等と協働して薬物治療を実施すること。欧米では、医師と薬剤師が契約を結んで権限を移し、薬剤師が主体的に薬物療法を管理するCDTMが実践されており、この範囲内で薬剤師は処方も行える。日本では、薬剤師に処方権がない環境を踏まえ、約8年前に欧米の事例を参考としてPBPMという概念が生み出された。
PBPMの提唱以降、薬剤師の職能は明らかに広がった。プロトコールで事前に医師の合意を得ているとして、適切な薬剤選択や検査オーダ、処方設計支援などに薬剤師が深く関わる取り組みが各医療機関で実践されている。各地で導入が進む疑義照会の簡素化もPBPMの一つと言える。
ただ、実践する医療機関の数はまだ少ない。PBPMの実施施設では、業務負担軽減や医療の質向上に役立つとして医師からの評価は高い。PBPMの良さを一度医師に知ってもらえれば、様々な業務に水平展開しやすいが、各施設で最初の一歩をどう踏み出すかが難しい。そこに大きな壁がある。
タスク・シフティングの推進には、PBPMが役立つ。先進事例を周知し、ノウハウを共有すると共に、PBPM実践の成果を数値化しメリットを明らかにする必要があるだろう。数値を提示することで、他施設での導入が進みやすくなるはずだ。