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【日本薬学会第141年会】<薬学会賞受賞研究>分子触媒の設計と組織化に基づく高度分子変換技術の創出

2021年03月19日 (金)

京都大学大学院薬学研究科教授 竹本 佳司

竹本佳司氏

 私たちは、持続可能な開発目標(SDGs)の理念に沿った人類と地球環境に配慮したモノづくり技術、すなわち省エネ・低排出・リスクフリー合成を可能にする取り扱い容易な“分子触媒”の開発に取り組んでいる。新触媒を発見すると、持続可能な合成法が誕生するだけでなく、従来法では困難だった分子変換が可能となり、合成戦略の革新にもつながる。以下に、三つの触媒開発とその応用研究について概説する。

1.アベナオールの不斉全合成

 アベナオールは、アフリカで作物被害を与える根寄生菌ストライガの駆除剤として期待されるストリゴラクトン類に属し、2014年に米山らによって単離された植物ホルモンである。合成上の課題は、全シス置換シクロプロパンを含むA,B環の構築とC,D環の8位と2´位の不斉炭素の立体制御である(式1)。アレニルジアゾ1のシクロプロパン化によりA,B環、アルコール2の1,3-水素移動を経てB環7位、ジオール3のエーテル環化、続く酸化によりC環8位をそれぞれ構築し4aとした。

 一方、生物活性に重要なD環の不斉構築法を検討し(式2)、触媒Dがエノール4bとブテノリド5の置換反応を加速し、6bを選択的(88%ee)に与えることを見出した。最後に、本法を化合物4aに適用し6aを経て(+)-アベナオールの初の不斉全合成を達成した。

図1

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2.カルボン酸の触媒的活性化

 様々なマイケル受容体が開発されてきたが、不飽和カルボン酸は唯一未開拓であった。私たちはチオ尿素とボロン酸の共触媒を利用したカルボキシ基選択的な活性化法を考案した。ボロン酸Eとチオ尿素F共存下ではフェノール7の分子内付加が高選択的に進行し、アミンの添加により天然物のワンポット合成を行った(式3)。触媒Gはカルボン酸9とBnONH2の分子間反応にも有効であり、付加体10より糖尿病治療薬とトコフェロール類を不斉合成した(式4)

 また反応解析から、ホウ素原子に水とカルボン酸二分子が配位した四配位ボレート錯体が真の活性種であり、協奏的な求核剤の付加とプロトン化が立体制御の鍵であった。さらに触媒Gはチア-共役付加にも適用でき、溶媒を変えるだけで同じ基質11から鏡像異性体(12)の作り分けが可能な“キラルスイッチ現象”を見出した(式5)

図2

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3.ペプチドおよびグリコシル化触媒

 ペプチドやグリコシド合成に利用できる実用的な触媒は今なお少ない。私たちはg‌e‌m-ジボロン酸Hを独自に開発し、ジペプチドの触媒的合成法を確立した(式6)。また、ボリン酸Iはジオール13とトリフラート14の1位選択的O-アルキル化を、また触媒Jはホスファイト15とのグリコシル化を効果的に加速し、対応する1,2-cis-グリコシドを与えた(式7、8)。第一級アミド存在下でも不活化されずにイミデート16やガラクタール17のN-グリコシド化を促進するイミダゾリウム塩K、Lの開発にも成功した(式9、10)

 以上、私たちは数々の独創的な触媒を世に送り出し、未踏反応への挑戦を通じて、グリーンケミストリーに多少なりとも貢献できた。今後はさらに革新的な高機能触媒を世に送り出していきたい。

図3

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