今年2月に米ファイザーの新型コロナウイルス感染症ワクチンが特例承認されて以降、医療従事者への接種が開始され、現在は65歳以上の高齢者を対象としたワクチン接種が始まっている。それと共に、身近でも接種者が増え、ワクチン接種の進展を肌で感じるようになった。
新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種が全国的に進む中で、各都道府県別の接種率ランキングが報道されている。日ごとに自治体の順位が入れ替わる様は、接種率の高い自治体ほど、優れた接種体制を整えているかのような印象すら受ける。人口や交通インフラなど地域の違いもあり、現実は全国一律の接種体制ではないということがよく理解できる。
最近、ワクチン接種体制の中で、薬業界の耳目を集めたのが、ワクチンの「打ち手」についての議論だ。ワクチンの集団接種が言われ始めた当初から、医療従事者としての薬剤師の参画も取り沙汰されてはいた。
ただ、薬局で薬剤師がワクチンを接種するという議論ではなく、集団接種会場などにおける新型コロナウイルス感染症ワクチンの希釈やシリンジ充填などの調製、問診や予診票の確認などのサポート業務への取り組みであった。
自治体などの事前訓練などでは、薬剤師はこうした業務に従事する流れの中にあり、接種自体に関与することはなかった。
ただ、打ち手不足の解消に向けた対応では、医師、看護師以外に、歯科医師がワクチン接種可能という特例解釈が加わった。5月31日の厚生労働省検討会では、新たに臨床検査技師や救命救急士も担い手に加えることが了承されたものの、薬剤師は見送られる結果となった。
米国や英国などでは、薬局店頭での薬剤師によるワクチン接種が日常的に行われている。今回の新型コロナウイルス感染症ワクチンについても、薬剤師がワクチン接種に関わっていると聞く。日本とはどこが違うのだろうか。
約10年前、ある大学の薬学部で6年制教育の一環として臨床技能教育の模様を取材した。そこでは、採血や筋肉注射などの臨床手技を学ぶ学生の姿があった。担当教授は、「薬剤師は調剤だけでなく、実地臨床で必要となる新たなスキルの修得が必要」と語っていた。
今回、パンデミックが発生したからワクチン接種の研修を初めて開始するというのでは、遅きに失した感はある。やはり薬学教育6年制の新たなスキルとして、大学主導で社会に発信することで、薬剤師もワクチン接種ができると国民に理解してもらうことも必要なのではないか。
ワクチン接種など、法律を超えた行為であったとしても、大学側が教えていくことは決してマイナスにならないだろう。地道な教育の積み重ねにより、社会的にも薬剤師職能の価値が高まっていくはずである。