この数カ月間で、薬剤師職能のあり方について改めて考えさせられる出来事が相次いだ。一つは、調剤の外部委託の是非が規制改革推進会議の医療・介護ワーキンググループで討議されたこと。もう一つは、新型コロナウイルス感染症ワクチンの打ち手として薬剤師が注目を集めたものの、当面活用は見送られたことである。
調剤の外部委託とは、同一企業内の他薬局や異なる企業の薬局等に調剤業務を委託すること。実現に向けた規制緩和が議論されたが、最終的な答申や閣議決定された規制改革実施計画には盛り込まれなかった。対人業務の推進につながる一方、中小薬局の淘汰が進む引き金にもなるため、薬剤師の間で賛否が割れた。
ワクチンの打ち手としての薬剤師への期待は、河野太郎ワクチン担当相の発言で一気に高まったが、5月末の厚生労働省検討会で、当面は見送るとの判断が示された。日常業務で血液検査用の採血を担当している臨床検査技師が認められたことから考えると、人に対する注射器や針の使用に慣れているかどうかが、判断材料の一つになった模様だ。薬剤師からは「国民の期待に応え、打ち手としても貢献すべき」との声が多かった。
これら二つの出来事があったが、結果的に現時点で大きな変化は何も生じていない。それをどう捉えるかは個々の価値観によって異なると思うが、薬剤師の職能とは一体何なのか、どのような道筋で職能を発展させるべきかを改めて考える機会として受け止めたい。
参考にすべき取り組みは、企業の投資活動だ。企業は事業で得た資金や社内のマンパワーを投じて新たなサービスや製品を開発している。市場に投入して利益を確保できれば、また次のサービスや製品開発に投じる。このサイクルを回し続けることで企業は存続でき、より便利で暮らしやすい社会の実現につながる。
薬剤師職能の発展にも、企業の投資活動と同様の考え方が必要になるのではないか。すぐに医療保険上の報酬や売上に結びつかない取り組みでも、先行投資して実行に必要な知識やスキルを備えておくことが重要だ。
先手を打って体制を整えておけば、社会から求められた時にすぐ対応できる。受動的な姿勢にとどまらず、薬剤師がそれだけの実力を備えていることを社会に向けて発信し、自ら積極的に業務範囲を広げることもできるだろう。いずれにしても、薬剤師本位ではなく、社会のためになることを明示すべきだ。
欧米の薬剤師は、こうして職能を開拓してきたと聞く。日本の薬剤師は、2年に1回の診療報酬改定、調剤報酬改定にどう対応するかに目が行きがちで、短期的な視点で物事を考える傾向が強い。海外の事例を参考に、日本でも中長期的な視野で社会に貢献できる薬剤師職能のあり方や発展の道筋について議論を深めてもらいたい。