厚生労働省の「薬剤師の養成および資質向上等に関する検討会」の取りまとめでは、薬剤師の養成に関して6年制薬学教育の問題点が数多く指摘された。入学定員を充足していない大学、入試の実質競争倍率が相当低い大学が存在することや、6年間で卒業して国家試験に合格できる学生が私立大学で6割に満たない状況などが列挙された。
薬剤師の需給動向については、2045年までの推計で「将来的に薬剤師は余剰」との試算が示されたことにより、特に薬学部の入学定員数について「抑制も含め教育の質の向上に資する適正な定員規模のあり方や仕組みなどを早急に検討し、対応策を実行すべき」と明記したことが大きな焦点となっている。
その際、薬剤師国家試験の合格者数を抑制していく方向性については、不合格者を増やすことになり、「望ましい方向とは言えない」と慎重な姿勢が示されたが、入学定員を抑制していく方向に大きく舵を切ったことは間違いないだろう。
かねて薬学部・薬科大学では定員制限がないという入学定員の問題は、国会や新薬剤師養成問題懇談会(新6者懇)などの場でも指摘されてきたが、文部科学省は厚労省の薬剤師需給調査の結果を踏まえて対応するとの考えを示していた。
今回、薬剤師数が将来的に余剰となる試算が示され、同検討会の取りまとめでも入学定員数について「抑制も含め早急に対応すべき」との文言が盛り込まれたことから、文科省も定員割れや留年率が高い大学の指導を強化していく方針を明言するに至った。
具体的には、今年度に定員割れしている大学や留年率の高い大学をヒアリングし、改善が必要な場合は適切な指導をするというものである。
文科省は、全国私立大学薬学部・薬科大学の約4割が20年度の入学定員充足率で90%以下となっている実態を公表したほか、5月から6年制薬学部の退学者に関する調査を実施していることも明らかにした。
特に、初めて実施された退学者に関する調査は、退学率や留年率などが高い大学のヒアリング対象を選ぶ際に、参考とする可能性もあるとしており、ここに来て文科省が動き出している感がある。
入学定員抑制に向けた風が強まっていく状況に、大学関係者も警戒感を強めている。ある私立薬科大学の経営者は「仮に1割の定員抑制でも大幅な減収となり、経営的に厳しい」と危機感を示す。水面下では、入学定員の増員を検討している大学も出てきている模様である。
本末転倒のような動きに見えるが、入学定員の抑制は大学経営に直結する話だけに、敏感な問題である。入学定員の抑制が避けられない流れとなる中、定員を増やすだけで乗り切れるのか。いよいよ、本当の意味で生き残りをかけた大学サバイバルの時代が到来する。