新型コロナウイルス感染症の猛威は衰えることなく、国内では14日現在で感染者数(正確にはPCR検査陽性者数)82万人以上、死者数約1万5000人に達し、全世界では感染者数1億8000万人、死者数は400万人を超えている。やっかいなことに変異株が出現し、アルファからラムダまで10種が確認されているようだが、特に感染力が強いとされるデルタ株が急激に拡大している事態は、相当深刻である。
世界は未曾有のパンデミックに対して有効な対抗策を講じている。感染防止のための基本的行動であるマスク着用、手指消毒励行、ディスタンス確保など3密回避を遵守しつつ、死者数・重症化減少の切り札とされるワクチンと治療薬の開発・普及に取り組んでいる。数種類のワクチンは、普及レベルに濃淡はあるものの世界中に行き渡りつつある。治療薬に関しても、日本では19日の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で、軽症者向け「ロナプリーブ」の製造販売承認が審査される。承認されると、中等症から重症者向けの「レムデシビル」「デキサメタゾン」「バリシチニブ」に続いて四つ目となる。治療薬が増えることは極めて有意義なことだ。
新型コロナウイルス感染症以外の疾病に対する医療と医薬品も同様に重要である。
現在、「医薬品産業ビジョン2021」の策定に向けた作業が進められている。5月17日の策定に向けた資料では、ビジョンの必要性、コンセプトと共に、医薬品のライフサイクルである研究開発、薬事承認・保険収載、製造(GMP・安全性)、安定供給、流通改善、海外展開ごとに、課題と現在の施策が示されている。どれも産業の健全発展に不可欠だが、昨今、一部医療用医薬品の安定供給が停滞したことや、後発品の安全性に関する事件が発生したことを受け、一般国民の視点からは、やはり高い品質確保と必要な医薬品の安定確保に関心が集まることになろう。
安定確保については、医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議が、昨年9月に取りまとめを発表し、3月26日の第5回会合では「安定確保医薬品リスト」を公表した。リストには、最も優先、優先、安定確保の3カテゴリーの506成分(内用薬216、注射薬244、外用薬46)が掲載されているが、これは2月26日から3月12日まで募集が行われたパブリックコメントを反映したものである。
取りまとめで「医療用医薬品を継続して安定して利用できることは……(略)……健全な医療の根幹を為すものであり、安全保障そのものでもある」と記載されているように、医療用医薬品の安定確保は、国民の生命と健康に直結する重大事項である。現在の関心と話題はコロナ禍に集中しているが、同時に、普通の健康的な生活を享受するために必要な医薬品の安定確保に向けた体制を万全にしなければならない。