「褥瘡治療」学べる講座開設
薬学ゼミナール生涯学習センターは、今年度の生涯学習講座から「褥瘡治療」「女性の健康」「メンタルケア」「排泄ケア」と新たなラインナップを加え、多様化する薬剤師業務への対応を図る。新型コロナウイルス感染症ワクチン接種に対する薬剤師の役割を広げていくために、ワクチンの調製業務や筋肉注射の手技を学べる生涯学習講座も検討するなど、地域包括ケア時代で活躍できる薬剤師の養成を目指す。
昨年度はコロナ禍の1年間だったが、5月からZoomを利用したライブ配信による講座を開始し、試行錯誤の中で新たなスタイルを築いた。木暮喜久子学長は、「“薬剤師の学びを止めない”との一心で取り組みを続けてきたが、思いのほかうまくいった」と手応えを語る。
今年度の生涯学習講座は11講座で、これまで取り上げたことのない新たなテーマでの講座が目白押しだ。その一つが褥瘡治療。4月に古田勝経氏(愛生館小林記念病院褥瘡ケアセンター長)から褥瘡治療に薬剤師が関与する重要性が訴えられた。
在宅医療に参加する薬剤師は増えているが、褥瘡に薬剤師が関与する重要性はあまり知られていないのが現状。古田氏は薬剤師の視点からフルタ・メソッドを確立し、褥瘡に対する薬物治療を実現している第一人者だ。
今回の講座には約70人の薬剤師が受講した。e-ラーニングによる事前学習で褥瘡の治療方針や軟膏基材の使い方を学んでもらい、当日の講座では褥瘡治療の基礎的な内容を中心に古田氏が説明した。
まず、受講者を5人グループに分け、中身が分からないA~Eの5種類の基剤について、それぞれ何の基剤なのかを当てる「基剤当てクイズ」を実施。7~8割の受講者は正解できず、難しかったようだ。
その後、2種類の基剤を混ぜたブレンド軟膏を調製してもらい、油性基剤と水性基剤を混合したときに基剤特性がどう変化するのか、ブレンド軟膏を傷口に塗ったときに変化するかについて古田氏が解説した。受講者からは今後、在宅医療に参画していく上で役立ったなど好意的な意見が多かったという。
褥瘡治療に関する生涯学習講座は他団体でも行われている。同センターでは、全受講者に講座内で使用するキットを送付し、参加しやすい環境を整えることができた。
木暮氏は褥瘡治療について「薬剤師ができるフィジカルアセスメントの一つ」と強調する。フィジカルアセスメントといえば聴診器を持って患者の身体に触れることと考えられているが、「皮膚の状態を診るのも薬剤師が関与しやすいところではないか」とし、薬剤師による介入に期待する。次年度以降には症例検討など一歩進めた講座も実施していく予定だ。
他の講座では、4月に宮原富士子氏(ジェンダーメディカルリサーチ社長)による「男女で考えるプレコンセプションケア」を開催。スイッチOTC化に向けた議論が再開された経口避妊薬などをテーマに、女性の健康支援に薬局がどう関わっていくかが説明された。
5月には前野哲博氏(筑波大学医学医療系地域医療教育学教授)による「メンタルな問題への対応」、6月にはユニ・チャームと共同で「症例から学ぶ排泄ケア―便秘と頻尿」と、社会のニーズが高く、薬剤師にとって目新しいテーマを取り扱っている。
今後は新型コロナウイルス感染症ワクチンの予防接種でも、薬剤師の職能拡大をサポートしていく。ワクチン接種をめぐっては打ち手不足が指摘され、薬剤師も打ち手候補として俎上に上がった。しかし、厚生労働省の検討会では当面、接種見送りとされ、ワクチンの調製や接種後の経過観察などが役割とされることとなった。
木暮氏は、「多くの大学で筋肉注射や静脈注射の練習を実施している」と述べ、同センターでも薬剤師がワクチンの希釈や充填、注射手技などを身につけるための生涯教育講座も検討していく方針。基礎的な理論を学ぶ研修はZoomで実施し、注射手技などの実習は薬ゼミの各教室を使うなど実施方法も検討していきたい考えだ。
卒前から卒後の一貫した薬剤師養成が求められるようになり、卒後の生涯学習の意義を理解してもらうための取り組みも進めている。58の大学薬学部に対して同センターが作成した「認定薬剤師研修手帳」を無料配布し、薬ゼミが実施している生涯学習について周知を行っている。
木暮氏は、今後の生涯学習について「遠隔で参加できるようになっており、地域差なく受講できる体制を目指していきたい」との方向性を語る。
薬学ゼミナール生涯学習センター
http://www.yakuzemi-shougai.jp/