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【第54回日薬学術大会】始まった新たな薬局認定制度 地域の癌患者支える薬局 すばる薬局(品川区)

2021年09月13日 (月)

第54回日本薬剤師会学術大会

すばる薬局外観

すばる薬局外観

 東京都品川区にある「すばる薬局」は8月1日付で専門医療機関連携薬局の認定を取得した。専門医療機関連携薬局の認定を取得しているのは、大手調剤薬局チェーンや癌治療を行う基幹病院の門前薬局に偏っているのが現状。小規模で基幹病院から離れた場所に立地する薬局が認定を取得するのは珍しいケースだ。地域に根付いた薬局として癌で苦しむ患者の不安に耳を傾けている。

小規模でも連携薬局に‐区薬の支援受け認定取得

 すばる薬局は2016年に開局し、JR大森駅から徒歩10分の場所に立地している。少し歩けばオフィス街だが、団地やマンションなど住宅地の側面もある。入居しているビルの2階には小児科のクリニックがあり、小児科関連の処方箋を多く応需している。

 すばる薬局を開局したのは原山眞理子氏。薬剤師は原山氏を含め3人体制となっている。

 専門医療機関連携薬局は、癌などの専門的な薬学管理が必要な患者に対して、他の薬局や医療機関と連携しながら、専門的でより高度な薬学管理や調剤に対応できる薬局と位置づけられている。

原山眞理子氏

原山眞理子氏

 原山氏は品川区薬剤師会副会長を務める。認定薬局制度が創設される前から、癌医療の地域連携で薬局がどうあるべきかを考えてきた。18年には加藤肇区薬会長と一緒に品川区がん研究会を立ち上げた。

 専門医療機関連携薬局の認定基準には、高いハードルが課されており、東京都でも取得しているのはごくわずかの薬局に限られている。原山氏は「認定を取ることに関心があったわけではない。調剤薬局チェーンでもなく、基幹病院の門前薬局でもない、開局して5年の薬局でも、十分にできることを若い世代の薬剤師にも見せたかった」と話す。加藤会長をはじめとする品川区薬剤師会のバックアップを受けて、8月1日に認定を取得することができた。

 現在、6人の癌患者に関する薬学的管理を行っている。専門医療機関連携薬局の認定基準には、「過去1年間のうち、処方箋を受ける癌患者の半数以上について、癌治療を行う医療機関への情報共有を行った実績」が要件となっているが、すばる薬局では癌の専門病院から離れた場所に立地しているため、癌患者の処方箋を受けることはほとんどない。癌に対応してくれる薬局であることを聞きつけて、患者が薬学的管理を求めるのがほとんどだ。

 抗癌剤治療では、通常3~4週を1サイクルとする投与期間と休薬期間が定められているが、その間に発現した副作用があれば薬剤師が癌治療を行った医療機関にフォローアップしている。副作用への対処で医療機関に処方提案を行う場合もある。患者が定期的に来局し、来局が難しければ薬剤師が電話で聞き取りを行う。

抗癌剤の作用、動画で説明

 抗癌剤は新しいタイプの薬が続々と登場しており、患者によっては主治医に治療内容を説明してもらっても、その場で理解できずに薬剤師に聞いて確認することもある。原山氏は患者が納得して治療を受けられるよう、医師による治療内容について分かりやすく説明を行っている。

 その一環として、抗癌剤が癌細胞に作用するまでのメカニズムを理解できるシミュレーション動画を独自に作成した。タブレットPCを患者に見せながら説明し、動画は患者が自宅でも見られるよう患者のメールに送付している。複雑な作用機序を持つ抗癌剤が登場しても、動画だと視覚的にイメージできるため、患者から分かりやすいと評判だ。

作成したチェックシート

作成したチェックシート
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 経口抗癌剤は47種類と多岐にわたっていることから、それぞれの抗癌剤で患者に正しく薬剤管理指導が行えるよう、品川区がん研究会で作成したチェックシートを活用している。併用禁忌の確認や併用注意薬の有無、アドヒアランスの確認、効果の確認、痛みの評価、副作用評価を行っている。

 患者の薬剤などの使用に関する情報を他の医療提供施設と共有する体制も求められている。すばる薬局も癌の地域医療連携ネットワークに参画。患者の治療計画を多職種で共有し、どこにいても必要なときに患者への治療内容や治療後の経過などが確認できるようになっている。

 専門医療機関連携薬局では専門病院と薬局の連携に軸足が置かれている一方で、地域医療連携ネットワークに欠かせないのが地域診療所のかかりつけ医だ。在宅療養中の患者で痛みに耐えられないと訴えた場合に、基幹病院に痛み止めの薬を緊急的に処方してもらいたくてもなかなか連絡がつながらないケースがある。その際には、診療所のかかりつけ医に頼み、FAXで処方箋を出してもらい、原山氏が薬を持って急いで患者宅に駆けつけることもある。

 開店時間外の相談、休日・夜間の対応はこれまでも当たり前に実践してきた。原山氏は一人暮らしの高齢患者からは病態急変時のために家の鍵を預かっているという。「何かあったときには深夜でも電話してくれ、と伝えている」と言う。24時間対応で患者を診る心構えと責任が必要になる。

 原山氏は薬剤師になって37年目になる。癌を身近に感じたのは大学生のとき。母が乳癌を発症した。

 薬剤師になって癌で苦しむ患者に対応していく中で、真剣に学びたいと思い、昭和大学病院薬剤部の門を叩いた。現在ではがん研有明病院副薬剤部長を務める清水久範氏による研修を受け、薬物療法や副作用評価など癌の専門的教育、地域連携の重要性について学んだ。

生活上の不安も支援を

 癌共生社会における薬剤師が担う役割は、患者がどう生きていきたいのかに耳を傾け、悩みや不安に寄り添うこと。専門医療機関連携薬局では、高度な薬学的管理に対応していく重要性が強調されているが、原山氏によると、薬剤師への相談で多いのは治療に関することではなく生活上の不安だ。

 例えば、「自分が癌になったことで、子どもも癌にならないかが心配」「家族に経済的な心配をかけたくない」「普通の日常生活が送れるようになりたい」など様々ある。長く生きることよりも、自分らしく人生の最期を終えるためにどんな準備をしたらいいのか“終活”の相談も多いという。

 患者のサポートに必要なのは人間としての経験である。原山氏は積極的に地域の行事に参加する。そのほか、東京都バドミンントン協会審判委員として、学習塾講師として地域住民といろいろな関わりを続けている。

 「認定を取ったからといって活動は何も変わらない」としつつも、「品川区がん研究会でどんな取り組みを行っているか継続的に発表していきたい」と述べ、癌患者を支える薬局が一軒でも多く増やせるよう地域の中で底上げにつなげたいと話す。



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