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【第54回日薬学術大会】薬局薬剤師が果たす役割とは‐岡田 浩氏(京都大学SPH薬局情報グループ)に聞く

2021年09月13日 (月)

第54回日本薬剤師会学術大会

住民に正しい情報の提供を

岡田浩氏

 新型コロナウイルスの感染拡大は、今もなお続いている。感染拡大を受けて多くの薬局薬剤師が、時には対応に苦慮しながら、住民への適切な情報提供、地域の感染防止やワクチン接種の推進などに取り組んでいる。こうした取り組みを通じて薬局の役割を改めて見つめ直した薬剤師も少なくないのではないだろうか。感染拡大早期からの積極的な情報発信で薬局薬剤師を支援してきた京都大学SPH薬局情報グループの岡田浩氏(同健康情報学特定講師)に、薬局薬剤師の役割や目指すべき方向性、世界の動向を聞いた。

 ――どのような情報を発信してきたのか。

 薬局薬剤師の行動を支援するために昨年4月にウェブサイトを立ち上げ、必要な情報を短時間で得られるようにリンク集を設けたり、独自の資材や動画を作成したりした。

 具体的には、薬局での防御対策チェックリストや、感染対策やマスクの使い方などを住民に啓発する様々なポスターを作成した。医師に感染対策や臨床症状を聞いた動画や、各薬局での対策を薬剤師に聞いた動画などを配信した。

 国際薬剤師・薬学連合(FIP)が策定した薬剤師向け新型コロナウイルス感染症ガイドラインの改訂版を、許可を得て日本語に翻訳し、ウェブサイトに掲載した。

 翻訳には、薬局薬剤師を中心に大学教員やプロの翻訳家など、熱意のある総勢50人ほどの有志が協力してくれた。皆で分担し、情報発信に取り組んだ。

 ――なぜ、情報発信に踏み切ったのか。

 薬局薬剤師として働いていた自身の経験を振り返ってみても、薬局で患者や住民から相談を受けることは多い。洪水のように様々な情報が溢れる中で、正しい情報を選択し伝えることが薬局の重要な役割だ。

 しかし、薬局薬剤師は多忙で、必要な情報を十分に収集できないこともある。個々の努力に委ねるだけでなく、薬剤師が力を発揮できるように支援体制を作ることが大事だと考えた。

 感染やワクチン接種に不安を感じている住民は少なくない。FIPのガイドラインには「薬局薬剤師は直接住民の相談に乗って助言したり、その人に合わせた正しい情報を届けたりできる」「あなただからこそできる仕事がある」と書いてある。現場を元気づける内容だ。

 身近な人からのメッセージは受け入れられやすいことが、研究でも明らかになっている。患者や住民にとって身近な存在である薬局薬剤師には、正しい情報を発信する役割があると思う。

 ――情報発信への反響は。

 ウェブサイトには半年間で約10万アクセスがあった。日本薬剤師会と日本保険薬局協会の会員約4000人を対象に調べたところ、約2割の薬剤師が見てくれたことが分かった。

 現在は、当初の役割を終えたとして情報の更新をほぼ休止しているが、このような情報発信は多くの薬剤師に影響を与えることを示すことができた。今後は組織力のある機関が薬剤師の支援活動を続けてほしい。オンライン研修や現場で使える資材の提供が有効だと思う。

海外の薬局も方向性は同じ‐共通する慢性疾患の増加

 ――海外ではワクチンの注射まで行えるなど、国内外の薬剤師が担う業務範囲の違いも注目された。

 薬剤師の権限は、各国の歴史や社会構造、制度など様々な要因が関係して形成されるため、海外で認められているから日本でも今すぐ実施できるというのは少し乱暴な話だと考えている。

 ただ、薬局薬剤師の役割は日本も海外も大きく変わらない。直ちに医師の診察を受けるほどではないグレーゾーンの相談に応じたり、病気を持ちながら生きる人を支えたりする役割は、世界中どこの薬局でも同じだ。

 日本では、自分たちの価値を低く見ている薬剤師が少なくない気がする。実際、薬剤師は幅広く社会に貢献する良い仕事をしている。自らの職業の価値を証明し、社会に向けて発信する薬剤師がもっと出てきてほしい。そうすれば次第に社会的な認知も進むことになる。

 ――海外の薬局薬剤師はどのような方向性を目指しているのか。

 薬局薬剤師の経験をもとにCOMPASS研究を実施し、薬剤師の患者への声かけには糖尿病患者の血糖コントロールを改善する力があることを示したが、その研究を実施する直前、2010年頃の海外の状況を調べた。すると、イギリスでは薬局薬剤師が栄養指導や禁煙など公衆衛生上の課題に取り組んでおり、ほかにもカナダやオーストラリアで糖尿病や高血圧の患者を地域の薬局でいかに支えるかという研究が増えつつあった。

 近年は、例えば北米では、カナダのアルバータ州だけでなく、薬剤師の処方を認める州がアメリカで増えている。新型コロナウイルスの感染拡大もあって、薬局で予防接種や検査を実施する取り組みも世界で広がっている。地域の健康支援に薬局を幅広く役立てることは、日本に限らず世界的な動向だ。

 ――その背景にある要因は何か。

 大きな要因は、世界で共通する社会の高齢化と、それに伴う慢性疾患の増加だ。慢性疾患の患者が増えると治療期間が長くなる。そうすると医師が患者にこれまでと同じように時間を割くのは難しくなる。日本では主に医師のコストを引き下げることで制度を保とうとしているが、海外ではタスクシフトによる仕事の切り分けが進んでいる。そこで、ナースプラクティショナーを設けたり、薬剤師の処方を認めたりしているのだと思う。

 ――薬剤師の活躍に向けて今後、日本でどう進めるのが現実的なのか。

 医師との関係で言えば、病に苦しむ患者を助けるという目的を同じにする医師と薬剤師が診療報酬のパイを奪い合うようなことに問題を矮小化すべきではない。医師の収入を削るような制度改革は禍根を残し上手く行かないだろう。幸いにも今の30代以下の医師には、研修先の病院等で助け合う仲間として薬剤師と関わった経験があり、薬剤師の仕事に理解がある。将来的な医師との関係には希望を持っている。ただ、薬剤師側に独立した専門職として受けて立つ覚悟も必要になるだろう。



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