今年も2月上旬頃から花粉前線の北上が始まるが、今春のスギ・ヒノキ花粉の飛散量は、昨シーズンと比べ、東日本では平年並み、西日本で多めと予測され、飛散開始はやや早めとされている。この時期、花粉症の症状を良好にコントロールし、患者のQOLを維持するために、最も広く用いられているのが抗ヒスタミン薬だが、薬剤の種類によってはQOL低下が起きる場合もあるという。
ヒスタミンは脳を活発にする働きもあるため、抗ヒスタミン薬が脳内に移行すると、脳の働きが低下することが知られている。抗ヒスタミン薬の服用によって、自覚症状としての眠気のほか、眠気がなくても知らず知らずのうちに集中力や判断力、作業能率が低下してしまう状態を来すことがある。こうした状態が「インペアード・パフォーマンス」(気づきにくい能力ダウン)と呼ばれるものだ。
インペアード・パフォーマンスは、自動車の運転や飛行機の操縦などに従事する人の場合、事故につながりかねない危険性をはらんでいる。このほか仕事や勉強、スポーツなど、日常生活全般の様々な場面で、無自覚なままに集中力や判断力が下がることで、不都合を生じさせる可能性がある。
米国では、鎮静性抗ヒスタミン薬を服用して運転すると処罰される州もあるとのことだが、日本では「インペアード・パフォーマンス」という言葉や、その意味についてはほとんど浸透していないのが現状だ。インターネットリサーチ会社のマクロミルが昨年12月、花粉症に関する調査を行ったが、この中で花粉症の薬を使用している約300人の職業ドライバー(トラック、タクシー、バス、電車の運転手)は、半数以上が眠気やだるさを経験したことがあるにもかかわらず、意外にも9割もの人が「薬を服用しながら運転する」と回答している。
この気づきにくい能力ダウンの正しい認知・理解と、適切な花粉症の治療を啓発することを目的に、先頃「インペアード・パフォーマンスゼロプロジェクト」が発足した。サノフィ・アベンティス、学習塾の栄光ゼミナール、信州・長野県観光協会、中日本高速道路、宇佐見鉱油、タクシー会社のハロー・トーキョーなど、賛同した各企業が、小冊子やポスターなどで一般への啓発を図っていく。こうした様々な企業を巻き込んでの運動は、初めての試みといえよう。同プロジェクトでは、今後も賛同企業を随時募っていくという。
現在、医師から処方される花粉症薬は、眠気やだるさなどの発現率が大幅に改善された第2世代の抗ヒスタミン薬が増えているが、OTC薬となると、その多くは第1世代が主成分となっている。
同プロジェクト代表を務める東北大学大学院の谷内一彦教授は「医師の理解促進と共に、OTC薬の販売に携わる専門家も、適切な説明に配慮してもらえればと思う」と、薬剤師の積極的な関与へ期待を求めている。同プロジェクトの目的達成には、薬の専門家の理解と協力が間違いなく不可欠といえよう。