医療死亡事故の調査に関する新たな仕組みのイメージは、医療機関からの届け出または遺族からの調査依頼を受け、同委員会が調査するもの。遺体の解剖やカルテを調査し、医療者を中心として法律関係者も参加したメンバーで評価・検討し、再発防止策の提言、関係省庁への勧告・建議を行う。委員会の目的は、あくまで原因究明・再発防止による医療安全の確保で、関係者の責任追及を目的としたものではないことなどと説明した。
製薬企業は、病気に苦しむ人たちを救うため日々、様々なステージで研究・開発に取り組んでいる。しかし、莫大な数の化合物の中で、実際に製造承認を受け、臨床現場で活用される化合物等は非常に少ない。
臨床試験段階に入った化合物の場合でも、フェーズI、IIと進むうちに、ドロップアウトする例も少なくない。実際に医薬品として認可されるのはわずか8%程度と、10分の1にも達しないのが現状だ。
「この8%を30%に引き上げることができれば、日本の創薬は飛躍的な進歩を遂げる」と語るのは、「マイクロドーズ(MD)臨床試験を活用した革新的創薬技術の開発」プロジェクトチームのチームリーダーである杉山雄一氏(東京大学大学院薬学系研究科教授)
MD臨床試験とは、本格的な臨床試験の開始前に、通常100μg以下、かつヒトにおいて薬理作用を発現すると推定される臨床投与量の100分の1を超えない、極めて微量の医薬品候補化合物を健常人に単回投与することにより行われる臨床試験。その目的は▽被験物質の吸収や血中動態特性を明らかにする▽ヒトに特異的な代謝物を発見する――などで、分子イメージング技術を用いて被験物質の組織分布に関する情報を得る。それにより成功確率の高い化合物を選択するという新たな創薬手法。
既に厚生労働省でも昨年6月、「MD臨床試験の実施に関するガイダンス」が示している。従って、日本でもMD臨床試験実施はできるが、承認審査データとして認められていないことから、各製薬企業での応用は進んでいない。なお、欧州では2003年1月に、米国でも06年1月に早期臨床試験のガイダンスが策定されている。
制度面では欧米に遅れはとったものの、漸くわが国でも行える環境は整ってきた。にもかかわらず実際には進んでいないという現状の中で、杉山氏をリーダーとする国家プロジェクトが始動した。
このプロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が医薬品開発支援機構(APDD)に委託し、東京大学、摂南大学、理化学研究所などの国内有数9研究機関、そしてアストラゼネカ、エーザイ、小野薬品などの製薬及び関連企業14社による「製薬コンソーシアム」が参加する。産学がガッチリと手を握り“革新的創薬技術”の開発に取り組むことになったといえる。
日本でMD臨床試験に“二の足”が踏まれている一因には、「アイソトープを用いた標識体の投与」が大きな要因として挙げられている。
プロジェクトでは、アイソトープ標識体を用いた血中・尿中・代謝物の同定、あるいはPETで血中及び腎・脳・腫瘍などの組織中濃度推移の測定を行う。さらに非標識体を用いた薬物間相互作用や遺伝子多型による影響など、当面は、既承認の20品目程度を対象に行うことにしている。
こうしたアイソトープを用いたプロジェクトが推進され、アイソトープ使用に関する国民の理解が進んでいけば、各企業独自の取り組みに拍車をかけることにもつながる。プロジェクトは、この面も大きな狙いとしている。
リーダーの杉山氏は、「世界の医薬品開発のあり方に、かなりの影響を与える可能性があると思っている。わが国で開発された創薬手法が、世界の創薬を変え得る可能性がある」と熱く語る。わが国による創薬開発の「変革」に向け、高らかに「Yes We Can」と言いたい。プロジェクト進展が今から楽しみだ。