腫瘍学と腎臓病学を融合させたオンコネフロロジーという新たな学問領域が関心を集めている。慢性腎臓病(CKD)患者ではがんが発現しやすく、がん患者はCKDになりやすいなど、両疾患には関係があることが分かってきた。まだ十分なエビデンスが存在しない中で、腎機能が低下したがん患者における抗がん薬の投与量最適化など、薬剤師が果たす役割は大きい。
今秋には薬剤師が関係する2学会が相次いで、オンコネフロロジーをテーマにしたシンポジウムを年1回の学会発表の場で企画した。この領域に対する現場の薬剤師の注目度も高まっている。
その一つ、ウェブ上で開かれた日本腎臓病薬物療法学会学術集会で発表した山本和宏氏(神戸大学病院薬剤部)によると、明確な疫学データはないものの、がん患者のCKD保有率は一般の患者に比べて高いと推定されている。CKDを有するがん患者は、そうでないがん患者に比べて生存期間が短いとの報告もあるという。
がん患者のCKD保有率が高い理由の一つは、がんの様々な要因によってCKDが発現することだ。腫瘍随伴症候群や腫瘍浸潤、尿路閉塞などがん由来の要因でCKDが発現するほか、抗がん薬による免疫低下や副作用で発現する場合もある。手術や抗菌薬投与などで急性腎障害を発症し、CKDに移行するケースも少なくない。
一方、CKD患者ではがんを発現しやすいという逆方向の作用もあるようだ。腎機能低下患者の予後を調べたスウェーデンの大規模研究で、推算糸球体濾過量(eGFR)が30未満の患者ではがんの発症リスクが1.24倍に高まることが示されている。
CKDを併発するがん患者の予後が悪い要因の一つとして、抗がん薬の投与量最適化が容易ではないことが挙げられるという。
一般的に腎機能低下患者では、必要に応じて腎排泄型薬物の投与量を減らすなど薬物療法を調整する。しかし、他の薬剤に比べて抗がん薬では、どの場合にどの程度の減量が必要なのか、あるいは不要なのかというエビデンスが十分に確立されていない。過量投与になってしまうと抗がん薬の副作用が発現し、減量し過ぎると十分な治療効果が得られない可能性がある。
エビデンスが不十分な中、臨床現場で判断を迫られているのが現状で、薬学的知見に基づく薬剤師の投与設計が大きな役割を果たすと期待されている。腎機能に応じた抗がん薬投与量の最適化に役立つエビデンスを構築する役割も求められる。
5年前に国内4学会が策定した「がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016」ではいくつかのエビデンスが示されているが、十分ではない。現在、薬剤師を含めた関係者が改訂作業に取り組んでおり、22年には新たな知見を盛り込んだガイドラインが示される見通しだ。