約8年間にわたって差し控えられてきた子宮頸癌(HPV)ワクチンの接種の積極的勧奨が再開することになった。接種期間前に接種を促すハガキなどを各家庭に送付できるようになる。2013年度から定期接種化された子宮頸癌ワクチンは、その直後から接種後に体の広範囲にわたって痛みを訴える多様な症状が報告され、13年6月には定期接種化からわずか数カ月で積極的な勧奨を一時中止する事態に陥った。
子宮頸癌ワクチンは、思春期に接種することで子宮頸癌を予防できる確率が高く、専門医からもワクチンで予防できる癌であることが訴えられてきた。最近でも英国から、若い時にワクチンを接種した人は子宮頸癌を発症するリスクが約9割減ったとの研究結果が報告された。
それにも関わらず、日本では長くワクチン接種が停滞する時期が続き、18年度に接種した人は対象者全体の0.8%にとどまり、英国の8割以上などと比べて明らかに接種率は下回っていた。
日本の現状は海外からも批判を浴び、特にWHOはワクチン接種率の低い日本に対して懸念を示し続けてきた。こうした状況を背景に、最近になって学会や議員連盟の動きなどが活発化。厚生労働省の専門家会合でも、接種後に見られた疼痛等の多様な症状とワクチンの関連性について積極的勧奨中止から約8年間で蓄積した安全性に関するエビデンスや、患者に対する支援体制の充実などが評価され、10月に積極的勧奨の再開の方向性が示された。その後、わずか1カ月余りで一気に再開が決まった。
これまでもワクチン接種と子宮頸癌の予防に関するエビデンスは世界から多数報告されてきた経緯もあり、ようやく正常化への道が見えたことは、女性を癌から守る大きな第一歩となるだろう。
もう一つの大きな背景には、新型コロナウイルス感染症の流行もあるのではないか。積極的な勧奨再開の直接のきっかけではないとはいえ、これだけ社会的にワクチン接種が話題となり、新型コロナウイルス感染症予防のためにワクチン接種が必要とのメッセージが繰り返し発信されたことの効果は、若い女性に対して少なくなかったと思われる。
特に新型コロナウイルスワクチンの接種によって、感染から自らを守るのみならず、家族や周囲の人を守ることにつながるという意識が醸成された。自分でメリットとデメリットをよく考えてからワクチンを接種するとの声も若い人からよく聞かれた。
子宮頸癌ワクチンも自分の体のことをよく考えて接種するかどうか判断しても遅くはない。まずは積極的勧奨の再開への一歩を踏み出した現在、わが国に根付いてきたワクチンそのものに対する考え方の転換も求められている。新型コロナウイルス感染症は、その好機を与えてくれたはずである。