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緊急時薬事承認を分岐点に

2021年11月26日 (金)

 緊急時における医薬品薬事承認制度について、厚生労働省が検討を開始した。新型コロナウイルス感染症の拡大に直面し、緊急事態下でも特別に医薬品の使用を認める制度の創設を目指す。年内に一定の方向性を示す方針である。

 短い審査期間でワクチン・治療薬の承認へと漕ぎ着けた特例承認制度は、コロナ対応で一定の役割を果たしたものの、課題点もある。米国など日本と同等の水準の薬事制度を持つ国で流通されている医薬品が対象となっており、日本が世界に先駆けて開発を進めた品目は除外されるルールとなっている。

 今後、感染症がまん延した場合に海外製品の調達が難しく、安定供給に支障を来す状況も考えられる。緊急時に海外製品頼みの薬事承認制度は心許ない。国産の治療薬やワクチンを国民に対して迅速に届けていく必要性を考えると、ルールを見直す方向性は支持できる。

 ただ、緊急時の薬事承認をめぐっては検討すべき論点が多い。▽発動の要件▽運用基準▽承認の期限・条件▽市販後の対応▽医薬品やワクチンを使用した場合の損害賠償の免責――と多岐にわたる。

 特に専門家からは安全性を担保した緊急時の薬事承認制度を求める声が強い。厚生科学審議会の部会では、委員から国内臨床試験を実施して安全性を確保することや市販後安全調査の範囲・頻度を拡大した上で、リスクがベネフィットを上回る場合は承認取り消しを求めるなど慎重な意見が多かった印象だ。

 当然、市販後安全性管理には厳格な対応が求められ、製薬企業の意識変革も必要になるだろう。早期承認された医薬品は上市後に副作用リスクを早期に発見し、医薬品との因果関係を明らかにすることが求められるが、日本は形式的な活動にとどまり、科学に立脚した安全性監視活動を実現できていない。緊急時の薬事承認に向けては、市販後に副作用の自発報告だけではなく、新たなリスクや因果関係の発見を目指し、能動的に安全性情報を収集できるようにしていかなければならない。

 一方で、厚労省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査体制が緊急時の薬事承認に対応できるかも心配だ。コロナ治療薬とワクチンの特例承認は、海外規制当局の薬事承認に追随した形で行われ、医薬品のリスクベネフィット評価で日本の独自判断が求められるケースではなかったと見られる。

 しかし、緊急事態下で世界に先駆けて国産治療薬・ワクチンの開発が進んだ場合には、その時点で利用可能なデータをもとに、特別に使用を認めるべきかを自らの責任で決めなくてはならない。

 改正医薬品医療機器等法で世界最速の承認申請を行った医薬品については先駆的医薬品に指定するなど取り組みを進めてきた。緊急事態下でも日本が主体性を持って、科学的根拠に基づき意思決定を行える体制整備を求めたい。



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