新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるべく、社会全体が粘り強く対策を取り続けた1年だった。断続的に現れた感染拡大は、薬剤師や製薬産業のあり方を改めて考え直す機会にもなった。
薬剤師は、春以降に本格化した各自治体のワクチン集団接種で、薬液の希釈や充填、服用薬確認などの役割を担った。
各地で集団接種体制の構築が進む中、薬剤師の必要性が問われることとなったが、関係者の働きかけもあって集団接種体制に薬剤師を組み込む自治体は少なくなかった。
一方、ワクチンを注射する打ち手としての薬剤師の役割にも注目が集まった。しかし、5月末の厚生労働省検討会で薬剤師による接種は当面見送るとの判断が示された。
この方針を踏まえて日本薬剤師会は、筋肉注射に必要な知識や手技を習得する標準的な研修プログラムを策定した。今後、各地で研修会が開催され、修了証を取得する薬剤師が増えるだろう。
どのような形であれ、ワクチン接種に薬剤師が関わる足場を築くことが重要だ。
将来は、経鼻投与など注射を必要としないワクチンが主流になるかもしれない。
そもそもワクチンは患者を治療する手段ではなく、健康な人を対象に感染症の発症を予防するものだ。今後、薬局が地域住民の健康維持など幅広い機能を備えた拠点へと発展するのであれば当然、ワクチン接種の機能も備えておくべきだろう。
新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の製薬産業のあり方にも課題を投げかけた。
海外で先行して開発されたワクチンを各国が奪い合う格好になり、日本も例外ではなかった。日本発のワクチンや治療薬を持つことは、国防の観点からも重要との認識が今まで以上に広まった。
この認識のもと、製薬企業のワクチンや治療薬開発を国が支援する動きが生まれたことは望ましい。現在は緊急時対応の意味合いが強いが、今後は、平時でも国にとって欠かせない薬の保持や開発を継続的に支援する枠組みの強化が必要ではないか。
国の発展に向けて製薬産業は重要な存在だが、相次ぐ後発品メーカーの製造不正の影響で、医療用医薬品の供給不良を引き起こした。業務停止命令を受けた後発品メーカーが供給を取りやめた結果、他社の医薬品へのニーズが高まり、連鎖的に出荷調整や出荷停止が広がった。
最終的に不利益を被るのは患者だ。こうした事態を繰り返していては社会からの信頼が失われかねない。
二度と同様の事件を起こさないように、製造管理体制の厳格化など社内体制の見直しを進めて、製薬産業の意義が社会から認知されるように努めることが重要だ。