今年は薬局・薬剤師のICT化を進める大事な1年になり、電子処方箋の普及は政策の要だ。厚生労働省は来年1月の電子処方箋の運用開始に向け、2022年度予算案で薬局等の整備を補助するための費用として約383億円を新規計上した。
医薬関係予算は前年度比約5倍となり、電子処方箋関係に多くを充てた。厚労省医薬・生活衛生局は「医薬関係の予算項目でこれほどの金額が計上されるのは珍しい」と異例の判断であったことを認める。
健康・医療・介護分野のデータヘルス改革をしっかりと成し遂げたいとの国の意思表示でもある。電子処方箋は、全国民の資格確認を一元管理するオンライン資格確認等システム(オン資)を基盤とするが、オン資は医療機関や薬局で導入準備が進まず、本格運用が半年間遅れた。電子処方箋も当初は今夏に本格運用を開始する予定だったが、開始時期が来年1月に先送りとなった。
今春以降には薬局や医療機関で電子処方箋のシステム改修作業が開始され、今秋には電子処方箋管理サービスが実装された環境で疑義照会や重複投薬のルールを検証するため、一部地域を対象にモデル事業がスタートする計画だ。進捗の遅延を繰り返すことは許されず、巨額の予算を投入し、スピード感を持って電子処方箋の体制整備を進めるのは理解できる。
電子処方箋の運用開始は薬局がオン資を導入する大きな動機づけとなる。薬局におけるオン資の普及率は1割程度にとどまるものの、電子処方箋の導入が進めば、オン資も相乗効果で一気に広がるとの期待も高い。電子処方箋システム導入支援をトリガーにデータヘルス改革を実行してもらいたい。
一方で電子処方箋管理サービスに入力した情報の管理や、重複投薬のアラート機能が調剤時に正しく運用される仕組みの構築、真正性の確保などシステム要件については解決しなければならない課題が存在している。薬局では電子処方箋利用時に服薬指導の質を担保する必要性から薬剤師教育が欠かせない。
そして普及に向けては医療機関側の理解も必要だ。処方医と患者でどんなやり取りがあったか分からない薬局薬剤師からはリアルタイムに処方・調剤情報を共有できる電子処方箋を歓迎する声が多い一方で、病院・診療所では導入のメリットが見えづらい。電子処方箋を利用するメリットに加え、薬剤費の削減効果などを訴えつつ、導入を促していくべきだ。
処方・調剤情報の共有化をめぐっては、病院や診療所、薬局、介護施設などをネットワークでつなぐ地域医療情報連携ネットワークの稼働地域で先行して試みられてきたが、利用が進まず低調だった。民主導ではなく、官主導で民への速やかな普及につなげられるか。国の手腕が試されている。