2022年度調剤報酬改定では、対物業務から対人業務にシフトしていく方向性が打ち出された。対人業務の充実では薬剤師の在宅医療への関わりが一つのテーマとなっており、地域支援体制加算の施設基準で在宅薬剤管理の実績要件が引き上げられるなど様々な評価見直しが行われたのが大きな特色だ。
注目すべきは、医療的ケア児に対する薬学的管理や指導を行った場合の評価が新設されたこと。外来での実施は「服薬管理指導料小児特定加算」(350点)、在宅での実施は「在宅患者訪問薬剤管理指導料小児特定加算」(450点)と高く評価された。
これまでを振り返ると、薬剤師にとっての在宅業務は、主に高齢者のポリファーマシー支援が中心で、病院での急性期治療を終えて在宅生活に移行する医療的ケア児に関与する機会は少なかったと思われる。
しかし、2018年2月の成育医療基本法の制定、昨年2月の「成育医療の提供に関する施策を総合的に推進していくための基本方針」の閣議決定で潮目が変わる。薬剤師が地域で他の医療職種と連携し、成育医療に関与していく役割が明確になり、10都県の薬剤師会でモデル事業を開始するなど社会的機運が醸成されるようになった。
調剤報酬で医療的ケア児への対応に関する評価が見直されたことは、小児在宅医療に携わる多くの薬局薬剤師に勇気を与えたのではないか。小児に対する薬物療法は約7割が適応外使用で、小児用医薬品がないために薬局で成人用のカプセル剤を粉砕して散剤にしたりするのに多くの手間がかかる。薬局や薬剤師の頑張りをしっかりと評価したという意味からも、小児在宅医療の推進につながる希望の光となる。
ただ、小児在宅医療に参加する薬局や薬剤師はごく一部で、裾野の拡大が重要な課題となっている。日本薬剤師会の調査で、医療的ケア児に対応している薬局の約4割が様々な医療機関から処方箋を応需している面対応の薬局であることが明らかになった。裏を返せば、門前で対応してくれる薬局がないということであり、入院から在宅に移行する場合に、自宅近くで対応可能な薬局を探しても見つからないケースが多くあるという。
薬剤師会が中心となり、薬剤師が小児在宅医療の現状を理解し、参加の動機づけとなる研修会を開催したり、他の医療職種と顔が見える関係を構築していく働きかけが必要だ。協力意向を示す薬局・薬剤師についてはリスト化し、地域内で共有していく体制作りを急がなくてはならない。
医療的ケア児を付きっきりで看護する母親の負担は重く、薬剤師が生活全般で相談相手の役割を担うことができれば、地域住民や他職種からの信頼は高まるはずだ。今回の改定は、薬剤師が成育医療に足を踏み出す重要な一歩だと捉えたい。