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【日本薬学会第142年会】奨励賞受賞研究 創薬展開を志向した天然―擬天然物の網羅的全合成と医薬化学研究

2022年03月23日 (水)

大阪市立大学大学院理学研究科講師 中山 淳

中山淳氏

 自然界から得られる天然有機化合物(天然物)は、多様で興味深い分子構造を持つだけでなく、人類にとってしばしば有益な生物活性を示すことから、創薬ひいては生命科学研究全般を加速させる重要な分子群であると言える。

 一方で、長い年月をかけて最適化されてきた天然物のような分子群を「狙って」獲得するのは必ずしも容易ではなく、新たな天然物を自然界から単離することも年々難しくなっているという状況がある。

 この問題を解決する一つの方法として、「天然物の構造を手本に設計した“擬天然物”」の合成が挙げられる。筆者は、自然淘汰から生き残ってきた天然物の重要構造、特に三次元構造維持に重要な炭素骨格を改変させることで生物活性天然物の枠組みを拡張させ、親化合物となる天然物を上回る、あるいは異なる生物活性を示す擬天然物の獲得を目指している。

 例えば、抗腫瘍活性を示すマクロライド系天然物LL-Z1640-2は分子内に二つの剛直な二重結合を有しており、それらは選択的生物活性発現に必須な要素である。

 この二重結合の多重度を敢えて変化させれば、本来有している選択性を失う可能性と引き換えに、大きな三次元構造の変化に伴う新たな生物活性発現が期待できる。

図

 このような考えのもと、LL-Z1640-2を鋳型として化学全合成により12種類の小規模骨格異性体ライブラリーを構築した。その結果、多発性骨髄腫担癌マウスに対して顕著な治癒効果を示す新規擬天然マクロライドを獲得することに成功した。種々の検討によって、本化合物は鋳型天然物であるLL-Z1640-2とは異なる作用標的を示すことも示唆されており、現在その標的同定研究や毒性試験を実施している。

 本成果の他にも、合成標的とする天然物ならびに擬天然物を効率的に全合成することで、天然物を上回る抗酸化活性物質や抗菌活性物質なども獲得している。

 天然物は言うに及ばず、擬天然物にも大きな可能性が秘められている。それらを開拓していくことで創薬、生命科学研究を加速するべく研究を深化させる所存である。



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