大阪大学高等共創研究院准教授 東阪 和馬
100nmよりも小さいナノ粒子は、サブミクロンサイズ以上の従来素材と比較し、比表面積が増大し、組織浸透性も向上していることなどから、香粧品や食品領域をはじめ、既に様々な産業分野の製品に実用化されている。そのため、われわれは妊婦/乳幼児を含め、ナノ粒子の意図的・非意図的な曝露を避けられず、化学物質に高感受性である「脆弱な世代(妊婦/胎児など)」に対する安全性評価の重要性が世界的にも指摘されている。しかし、ナノ粒子の曝露実態に沿ったハザード情報については、未だ理解が十分とは言い難い。
本観点から、われわれは、脆弱な世代に着目したナノ粒子のリスク解析(危険性:ハザード【毒性】と曝露実態【動態】との積算で求められる)を目指し、「物性-動態-毒性」の連関解析を通じ、その毒性解析と機序解明を実施してきた。その結果、ナノ粒子がその物性によっては、血液胎盤関門を突破し、胎仔発育不全をはじめとする生殖毒性を引き起こし得ること、また、胎盤の形成・成熟に重要な栄養膜細胞の構造・機能形成を抑制し得ることを明らかとしてきた。
一方で、ナノ粒子による胎盤障害に対して、好中球やオートファジーが保護的に働くこと、さらに、ナノ粒子の表面を官能基で修飾を施すことで、ナノ粒子による生殖毒性が軽減し得ることを認めるなど、ナノ粒子の物性-動態-毒性の連関解析手法の有用性を示すと共に、ナノ粒子の安全性確保における優れたアプローチであることを提示してきた。
本研究成果は、生殖発生毒性学的視点からのナノリスク解析基盤の構築に直結し、ナノ粒子のリスク管理に係る新たな政策形成に資する知見を提供するものである。本研究のさらなる発展により、わが国のナノ産業の発展・社会受容の促進のみならず、今後の健康科学領域の発展にも貢献し得ることに期待し、これからも研究に邁進する所存である。