日本褥瘡学会は、褥瘡・創傷専門薬剤師制度を創設した。2024年度に第1回目の試験を実施し、認定を開始する計画だ。同学会認定褥瘡薬剤師または在宅褥瘡予防・管理師の取得者で、学術講習や実技研修の履修、学術大会での発表や論文投稿などの要件を満たし、試験に合格すれば、専門薬剤師の資格を取得できる。
来年初頭には、制度を動かすための専門薬剤師を認定。その専門薬剤師がいる施設を臨床研修施設として認定し、来年夏頃から研修受け入れを開始する計画だ。
専門薬剤師の基礎要件となる同学会認定褥瘡薬剤師は現在110人、在宅褥瘡予防・管理師の薬剤師の取得者は21人存在する。この中からどれだけの専門薬剤師が誕生するのか期待は大きい。
振り返ると、褥瘡領域で活躍する薬剤師が増えるきっかけになったのは、20年以上前に愛知県で始まった草の根運動だ。薬剤師の古田勝経氏(小林記念病院褥瘡ケアセンター長)が当時、勤務先の国立療養所中部病院(現国立長寿医療研究センター)で実践していた独創的な褥瘡の薬物療法を学ぼうと、愛知県の薬局薬剤師や病院薬剤師が集まり組織を結成。古田氏の理論の要点を書籍にまとめて自費出版したり、全国で講演会や実習の場を設けるなど、意欲的な活動が継続的に展開されてきた。
ここで学んだ薬局や病院の薬剤師が自施設で褥瘡の薬物療法に関わるようになり、活動の輪は全国に広がっていった。この活動が母体となって皮膚褥瘡外用薬学会が発足し、現在に至っている。
古田氏が実践してきた薬物療法はその後、「古田メソッド」として確立された。褥瘡を治すには、創面の湿潤環境を適正に保つ必要があると提唱。外用薬の薬効だけでなく吸水性、補水性、保湿性という基剤の特性を踏まえて、適正な湿潤環境が維持されるように外用薬を使い分けたり、混合して使ったりする方法を構築した。外用薬が流れ出ないように創を固定する手法も考案。古田メソッドは薬剤師だけでなく、褥瘡領域の多職種に幅広く認知されるようになった。
かつては「褥瘡は看護の恥」と言われ、褥瘡の発生は看護師のせいにされた時代があった。現在でも看護師は褥瘡のケアに深く関わっているが、多職種によるチーム医療の重要性は認識されている。今回の専門薬剤師制度も、薬剤師が中心の皮膚褥瘡外用薬学会ではなく、多職種で構成される日本褥瘡学会で創設されたことに大きな意味がある。
草の根運動の始まりから専門薬剤師制度創設までを俯瞰すれば、一本の線でつながっているように見える。薬剤師の努力が実を結んだ格好だが、在宅医療などでのニーズを考えると、褥瘡に関わる薬剤師の数はまだ十分とは言えない。制度創設を機に、褥瘡領域で活躍する薬剤師がさらに増えることを期待したい。