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セルフケア、国民的議論の好機

2022年09月02日 (金)

 新型コロナウイルス感染症の第7波が猛威を振るっているが、最近になって全国の感染者数は減少傾向となり、実行再生産数も1を切るなど、ようやくピークアウトの感も見え始めている。

 第7波の最大の特徴は、爆発的な感染力と軽症者の多さだ。首都東京では、7月上旬には感染者が1万人に満たなかったのが、わずか数週間であっという間に拡大し、同28日には4万人を突破した。まさに第1波の時に指摘されていた「オーバーシュート」であり、検査や薬を求めて発熱外来がパンクし、救急車の出動率もほぼ100%となった。アセトアミノフェンをはじめ解熱鎮痛剤までも枯渇する事態に陥った。

 こうした混乱を重く見た日本感染症学会、日本プライマリ・ケア連合学会など4学会が「慌てて医療機関を受診することは避けて」と呼びかける緊急声明を出すことになったのである。

 今回の第7波では、政府は爆発的に感染者が増えている中でも行動制限はしないと決断したが、それに伴うリスクを国民に説明してきたとは言い難い。本来、これだけの感染拡大を許容する以上、適切なセルフケアを呼びかけるなどして、医療の逼迫を避ける必要があった。

 一連の混乱は、わが国の国民皆保険制度の問題点を浮き彫りにしたと言える。「少しでも気になることがあれば医療機関へ」というフリーアクセスの利点が、かえってコロナ感染者や疑い者を医療機関に殺到させてしまい、医療の逼迫を招く結果になってしまった。日頃から軽い症状はセルフケアで対処するという習慣が根付いていれば、状況は大きく変わっていただろう。

 国民にとっても、第7波の医療逼迫は大きな教訓になったと思われる。医療機関を受診できない、解熱鎮痛剤がない、検査が受けられないということを身をもって実感した。それだけに、軽い症状の場合、どこまでをセルフケアで対応して、どこまでを医療保険でカバーするのかについて国民的な議論が必要ではないだろうか。

 日本ではセルフケアに対応できるOTC薬や検査キットが少なく、海外で当たり前に行われている薬剤師のワクチン接種も認められていない。医療資源は有限であり、本当に必要な人に適切な医療を提供するためには、セルフケアの拡大は必須だろう。その時にカギを握るのが薬局、薬剤師である。

 今月には、新型コロナウイルス抗原定性検査キットのOTC化が電光石火の勢いで決まった。なかなかOTC化が実現しない緊急避妊薬とは対照的で、国がやろうと思えばできることを裏付けた格好ともなった。

 権益の奪い合いではなく、次なるコロナの波に備えるため、どのような医療の提供のあり方が望ましいのか、国民はどこまで許容するのか、今こそ議論に適した時期はないはずである。



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