ドラッグラグに対する懸念や安定供給の問題を受け、医療用医薬品の目指すべき流通や薬価制度のあり方を検討するための議論がスタートした。厚生労働省は8月31日に有識者検討会の初会合を開き、今後、革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期上市、医薬品の安定供給に対応するための課題を整理し、来年3月の取りまとめで流通・薬価制度のあり方について提言する予定だ。
薬価制度改革は中央社会保険医療協議会、流通のあり方については医療用医薬品の流通改善に関する懇談会で議論されるテーマだが、敢えて検討会を立ち上げたのは、日本の医薬品開発環境が厳しい状況に追い込まれていることに他ならない。
厚労省が示したデータによると、医療用医薬品の世界売上上位300品目のうち、日本が最初の上市国だった割合はわずか6%に過ぎず、米国・欧州に次いで3番目に上市されたのが65%を占めた。日本でいつ上市されるか分からない“ドラッグロス”の可能性がある「未上市・時期不明」は18%と、米国・欧州に比べ突出して高かった。
国内未承認薬も増加しており、欧米で承認された新有効成分含有医薬品のうち、国内未承認となっている医薬品数とその割合を見ると、2016年の117品目、56%から20年には176品目、72%まで拡大していた。
ドラッグラグ、ドラッグロスの要因は単純には特定できないが、改定のたびにルールが見直されるわが国の薬価制度により、製薬企業が開発する品目の市場規模予測の確実性に変化が生じ、事業予見性が見通せなくなったことが背景にある。
不採算医薬品の安定供給にもしわ寄せが行く。毎年薬価改定による薬価引き下げと世界的な原材料の原価上昇で、患者にとって必要な医薬品の供給が困難になっている。流通や薬価制度の検証は当然だろう。
新薬創出等加算の試行的導入はドラッグラグ解消に寄与してきた。一方で、この10年で薬価制度が複雑化し、制度疲労を起こしているとの指摘もある。年間薬剤費1000万円以上の高額医薬品が登場し、再算定など新たな考え方に基づく特例ルールにより部分的に対応してきたものの、薬価の原理原則が見えなくなっている。
医療財源の問題もある。診療報酬改定では薬価引き下げ財源を診療報酬本体に充当するなど、革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品、安定供給確保が必要な医薬品を薬価で評価するのは難しく、負担と給付のあり方も含め現状の枠組みを抜本的に変える必要があるだろう。
議論をスタートさせたことは評価できるが、山積している課題を見ると、検討着手の時期が少し遅すぎた感は否めない。ドラッグラグで不利益を被るのは患者だ。今こそ、流通・薬価制度の大改革を実行してもらいたい。