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【第55回日薬学術大会】次世代担う後継者育成進める‐日本薬剤師会 山本 信夫会長に聞く

2022年10月03日 (月)

第55回日本薬剤師会学術大会

5期目となる新執行部スタート

山本信夫氏

 日本薬剤師会は6月、山本信夫会長体制5期目となる執行部をスタートさせた。この2年間で次代を担う後継者の育成に取り組むと共に、5月に公表した政策提言の実現に向けた取り組みを進めていく方針だ。薬剤師・薬局をめぐる環境が変化する中、山本氏は「業務拡大のみならず、原点回帰も必要」と訴える。山本氏に今後の事業運営の方向性などを聞いた。


 ――新執行部をスタートさせた。

 会長として2年間の最重要課題は後継者を育てていくこと。30人の理事がいて、新たに7人が加わったが、皆さん地域の中で頑張ってきている人たちだ。新たな発想やアイデアを取り入れていきながら、日薬の事業を広げていく一方で、活動の中身が薄まらないよう事業運営に当たっての基本的な考え方については濃縮させる必要があり、各理事にはそれを実行していただくことが重要だ。そのためにも人材養成を進めていきたい。

 2021年と22年に政策提言を出させてもらった。各年度の事業計画の中に様々な項目を盛り込んでいるが、長期視点で大きなストラテジーとして示したものになる。

 振り返ると、16年に「患者のための薬局ビジョン」が策定され、日薬が取り組んできたことが政策的に国の方針として示された。“モノから人へ”“門前から地域へ”という言い方は日薬がこれまで推進してきた方向性であり、これまで薬局や薬剤師が直面してきた課題が様々な形で指摘されるようになり、20年の医薬品医療機器等法改正につながった。

 改正薬機法で記載された内容が22年診療報酬改定にも色濃く反映している。24年には診療報酬・介護報酬などのトリプル改定、25年には地域包括ケアシステムと医療計画の見直し、26年の診療報酬改定が控えている。長期的には25年を境に30年、40年と人生100年時代においても薬剤師が活躍できるよう土台作りを進めないといけない。

 この2年間で種を仕込んで、次世代を担う執行部の方々が基本政策を将来にわたって使えるようにしないといけない。副会長が大きな流れの中で薬剤師が今どこにいるのかを考え、常務理事や理事がそれを広げていくことが必要だ。

 ――地域医薬品提供計画について。

 薬局薬剤師が過剰になるとの指摘がある中、薬剤師不足が何に起因しているのかを考えた時に、本当に薬剤師が足りていないのか、偏在していて地域によって不足しているのかの二つのパターンが挙げられるが、私は後者の理由で薬剤師不足が起こっていると考える。

 薬局の偏在と医療提供施設の分布に誤差があるのではないか。医療計画が策定されたのは戦後間もない時期で、その頃は医療の定着が大きな目的であり、治療手段として医薬品を使うことが主流ではなかった。でも現在は、医薬品で病気を治すことができるようになった。C型肝炎治療薬「ハーボニー」を例に挙げると、C型肝炎ウイルスを消失させ、肝硬変や肝臓癌への進行を食い止めることができるようになるなど、外科的な手術と同じく医療技術と考えていいような薬が登場した。

 そうなると、医療計画に医薬品を提供する体制整備を明確にする必要が出てくる。全国どこにいても革新的な医薬品を提供することが必要だが、都市部では薬局が乱立している地域がある一方で、地方では医療機関がありながら医薬品を提供する薬局がないのが現状だ。

 市場の原理に任せるだけでは医療機関の近隣に薬局が集中してしまう現状を考えると、医療計画の中で薬局や薬剤師をどう配置する必要があり、国には薬剤師の確保と適正な配置を考えてもらいたい。地域内で薬局の出店に制限をかけることを主張しているのではなく、無薬局地区に薬局を開局させる体制を整えてほしいというのが医薬品提供体制の大事な趣旨だ。

 一方で、国の政策だけに委ねるのではなく、薬剤師会としても地域の中で医薬品を提供していく覚悟が必要だ。例えばモバイルファーマシーは災害時対応の有効な手段であることは説明するまでもないが、平時の利活用にまで安易に依存するようなことになってしまったら、日本では薬局がいらないということになる。モバイルファーマシーという手段に依存した医薬品提供体制ではなく、本来は全ての地域にきちんと薬局を開設すべきだと思う。

 例えば薬局がない離島地域のようなところでは、薬剤師を1週間に2~3回現地に派遣することなどが考えられる。地理的な環境に合わせて薬局や医薬品供給拠点をどう整備するかであり、そのための検討や努力はせずモバイルファーマシーを活用しようとするのであれば、それは少し順番が違うのではないか。

 ――医療用一般用兼用医薬品について。

 以前からOTC類似医薬品の保険外しが議論となっている。処方箋で取り扱うことも可能で、OTC医薬品として販売できる医薬品があってもいいのではないかということで提言を出させていただいた。

 概念としては“水陸両用”だ。医療用一般用兼用というカテゴリーにして医療でも使えるけど、OTC医薬品にもなる。保険の給付体系を変えないといけないので実現は容易ではないが、一つの方向性になる。

 処方箋なしで医療用医薬品を販売する零売行為は本来的にはそぐわない。緊急避難的な場合に認められている零売が、それ以外の場合でも当たり前のように行われている状況を整理したかったというのもある。

 ――リフィル処方箋の普及に向けて。

 1枚の処方箋を丁寧に取り扱い、調剤後に体調や副作用、服薬管理などのフォローアップを行うことはこれまでも取り組んできており、リフィルだからといって薬剤師が新たに取り組まないと対応できないということではない。

 薬剤師会としてはリフィル処方箋の発行運動などを行うつもりはないが、処方箋をもっと大事に取り扱ってほしいという発信はしたいと思っている。患者さんからリフィル処方箋について質問された場合に、薬剤師が仕組みをきちんと回答できるようルールの周知・啓発に向けた取り組みは必要かもしれない。

薬剤師の原点回帰が必要

 ――学術大会は2年ぶりのリアル開催になる。

 ウェブとのハイブリッド開催なので、健康上の理由で参加できない人たちやスケジュールの関係で参加できない人にとっては良い仕組みだ。

 宮城県は東日本大震災が起こった11年の開催地であり、10年経って復興したかを参加者一人ひとりが感じ取ることの意味は大きい。私も楽しみにしている。

 ――会員へのメッセージ。

 20年の薬機法改正により、これまで薬局・薬剤師が抱えていた課題が整理された。今後薬剤師は何をするのかという問いに対しては、「原点回帰が必要」と申し上げたい。それは薬剤師業務の拡大ということでなく、調剤だけではなく、患者や地域住民に必要な医薬品を扱い、情報提供や服用している薬の相談にも応えられるよう薬剤師がしっかりと対応していくことに他ならない。つまり、自分たちの仕事をしっかりやるということだ。

 東日本大震災や新型コロナウイルス感染症でも助け合って仕事をしてきた。困難に直面した方をどうやったらサポートできるか考えてきた。薬剤師として医業に踏み込み、新たな仕事を広げていくという方向性はあるが、その前に薬剤師としてしっかりと取り組まなければならない仕事があるはず。それが全うされた後の「業務の拡大」議論だろう。まずは、国民・患者のためにどんな仕事ができるのか、いま一度落ち着いて考えることも必要ではないか。

 薬剤師としてやるべきことをしっかりと行い、それが評価されれば次の世代に結びつき、新しい業務拡大につながる。他の医療専門職が実施している業務について「われわれにもできる」と言って職能を広げる動きは、薬剤師会としては好ましくないと思っている。

 その一方で、今の薬剤師業務を浸食するような動きには抵抗していく。薬剤師業務としての原点を変えず、もう一度原点を見つめ直していきたい。



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